魔王、温泉で癒される
「ん、イチロー、こっちだよ」
地下33階層に戻り、人狼達と別れたあと、ヴィレダに手を引かれて森林区画の奥に連れて行かれる。
「ヴィレダの家は階層中央部の吹き抜けの辺りじゃないのか?あの辺りなら、集光拡散のクリスタルで地上から陽光が届くだろ」
「ふっふ~、あたしの家には“あれ”があるからね」
「……(コクッ)」
そして、ベルベアも一緒について来ている。
「ベルベアの家もこっちなのか?」
「……… 一緒、暮らして……る?」
何故に疑問形なんだ……
彼女達の家は森林区域の奥、ダンジョンの外壁に沿うように建てられた木造の館だ。そして、本館から少し離れた場所に木の覆いがあり、その向こうからは湯気が立っている。
「まさか!?温泉なのかッ!」
「イチロー、結構汚れてるから、先に風呂に入りなよ♪ 着替えは残してある兄の服を用意するね」
「……(コクッ、コクッ)」
勧められるままに俺は温泉に向かい、ヴィレダとベルベアは家に入っていく。
脱衣所で真っ裸になった後、桶を持って湯殿まで行く。そして、湯船から湯を掬いその温度を確かめると、ちょうど良い具合だった。よく見ると、水路から水を引き入れて温度を調節する仕組みのようだ。
このダンジョンの生活及び生産区域には地下31階層から延びる通路の先にある地底湖の水を引いている。その地底湖から最下層に向けて水路を作って水が流れるようになっているのだ。
途中の経路には所々に水量調整用の設備があり、そこを経由して最下層まで水が流れた後は貯水槽に貯まる。一定以上の水量になった場合はその貯水槽の栓を抜き、さらに下を流れる地下水脈に放流する仕様だ。
そもそも、ダンジョンは地下鉱山を核として段々に大地を掘り進めた深さ約840mの全50階層で構成される。
その各階層を崩さない様、魔法を駆使して地盤を固め、柱などで要所を補強しながら横方向に少しずつ長い時間と魔族の総力を投じて拡張していったのだ。途中で”造成”の概念装に目覚めなければここまでのダンジョンは作れなかったけどな。
何故、そこまでしたのかと言えば、未来を知る概念装を持つ”先見”の巫女殿の警告があったからだ。何らかの種の保存のための施策が無ければ、我らは数百年の後に滅ぶだろうと……
彼女は意図的に未来視をできるわけではなかったが、見えた場合は必中していたため、その警告を無視する事はできなかった……
因みに補足しておくと、地下に居住空間を作る際に問題になるものの一つは温度だ。100m潜るほどに2.5度ほど上昇する。つまり、最下層が地表より+21℃という事になる。
まぁ、此処はこの惑星の寒冷地帯で地表温度が‐1℃~10℃だから、ダンジョン内は最下層で20℃~31℃だ。そこまで問題は無いし、暑ければ上層に涼みに行けばよい。気圧に関しても最下層で1.1気圧だから同じく問題もあまりない。
実に良い物件なのである。
などと、旧地下鉱山跡を利用する案を思いついた時の喜びを思い出しつつ、体を洗って湯船につかる。
「あ~、癒される~」
俺が“ぐで〇ま”のようにだらけていると、脱衣所に人気を感じる。
ヴィレダが着替えを持ってきてくれたのだろう。
ん、いや待てよ。
気配が二人分あるぞ?
「イチロー、あたしも一緒に入りにきたよッ!」
そんな言葉と共にヴィレダがやってくる。
勿論、裸だ。
「待て、ヴィレダ!湯船に入る前に身体を洗うのがマナーだ」
「ん、そうだね」
さらに彼女に続いてベルベアまでやってくる。
「………(コクッ)」
いや、何に対する肯定だよッ!?
寧ろ、一人で温泉に入らせてくれ……
読んでくださる皆様には本当に感謝です!!
ふと気づけば評価やブクマを頂けていた時とか、すごく嬉しいです!
拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。




