魔王、”終極”の魔法使いを懐かしむ
まぁ、上層への階段が塞がっているからと言って、何も状況が分からないわけでは無い。ダンジョン中央部の吹き抜けがあるからな…… 今、この場に吸血鬼はスカーレットしかいないため、すぐには斥候を出せないけれど。
「スカーレット、後で上層の偵察を頼む。何人か吸血鬼の飛兵を出してくれ」
「分かりましたわ、地下14層より上の様子を確認致します」
こういう時に飛べるというアドバンテージは大きい。
最下層からでも中央の吹き抜けを飛び上がれば、短時間で上層に至る。
本来ならばダンジョンの階層間の移動はかなりの時間を必要とし、移動距離によっては物資を準備して、数日間の旅程となるのだ。
転移ゲートならばそれを妨害する魔導装置の影響がない限り一瞬で移動できるが、そもそも、転移ゲートで複数人を送る事ができる使い手がほとんどいない。
転移系魔法は距離的な要素よりもそこを通過する質量を問題とするからだ。それを鑑みれば、身内ではスカーレット、ミツキ、グレイドの3人が転移ゲートで1個小隊50人程度を通過させられるくらいか?
因みに俺も精々、2個中隊400人程度をゲート経由で転移させれば、魔力が尽きた雑魚と化す…… イルゼ嬢から聞くところによると敵方の“遍在”の魔女も俺と同程度らしい。
昔であれば“終極”の魔法使いが1個大隊規模を転移させるという荒業で奇襲を仕掛けてきた事もある。あの時は肝が冷えたな……
「おじ様、何か考え事でも?」
昔を思い出していると、スカーレットから声を掛けられる。
「いや、何でもない。少し昔を懐かしんでいただけだ…… そういえば、300年前の“終極”の魔法使いはどうなったんだ?」
確か、当時のブラドが“我が生涯の好敵手”とか言っていたから、娘のスカーレットなら知っているかもしれない。300年前に俺が勇者と相打ちになった時点で健在だったので、彼らの中で唯一、その死を確認していない人物だ。
まぁ、寿命的にもう生きてはいないだろうけど。
「確か、私達から奪った土地に国を建てたと記憶しておりますわ。その頃は私達も余裕がなく、詳しくは存じ上げておりませんけど……」
「そうか、それはそれで興味深い。いずれ奴の創った国とやらも見てみたいものだ」
薄く笑みを浮かべつつ、最下層に還るための転移ゲートを開く。
「お帰りですか?我が君」
「あぁ、ミツキはどうするんだ?」
「私は先行して転移ゲートで来ましたので、後続の鬼人兵を待ちます。合流後はダロス殿と共にこの15階層に暫くは留まるつもりです」
「ミツキにダロス、二人とも頼んだぞ」
「えぇ、承りましたわ」
「任せてください」
二人の返事を聞きつつ、踵を返してゲートをくぐる。
「ヴィレダ、帰りますわよッ!」
「ん、今行くッ!じゃあ皆、無茶はしないようにね」
ここに派兵されている人狼兵に混じって、何やら話し込んでいたヴィレダをスカーレットが呼び戻し、一緒にゲートをくぐってその先の謁見の間に戻るのだった。
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