魔王、鬼姫の提案に乗る
魔物の大量発生の報告を受けた俺は取り敢えず、訓練場から地下15階層への転移ゲートを開く。その場にイルゼとマリを残して、スカーレットとヴィレダの二人と一緒にゲートをくぐった。
転移先では、多少負傷した程度のどこか疲れた感のあるミノタウロス兵達がへばっていたが、状況自体は落ち着いているように見える。
あたりを見渡していると毛並みの良い黒毛の猛牛、ダロスが寄ってきた。
「王様、一応、魔人兵に地下14階層の階段を封鎖してもらって凌ぎましたが、非常に厄介な事になっています。魔物の数が多すぎて、進むどころじゃありません」
「ふむ……」
俺は上層への階段を塞ぐ土塊に目を向ける。
「あ~、王様、無策でその封鎖を解くと魔物が溢れて自滅しますぜ?」
「実際に体験したダロスがそう言うのならば、そうなのだろうな……」
「でも、ダロス殿、魔物が溢れた原因はどうなのさ?」
侵攻部隊に参加していた人狼兵達の無事を確かめたヴィレダが戻ってきて問いかける。
「理由とか以前に魔物の群れを押さえるのに必死だったからな、原因など皆目見当もつかんよ」
「さて、如何いたしましょうか?おじ様。現状、私達は此処より上層に侵攻できませんけど、シュタルティア王国軍も下層に降りてこられない状況ですわ」
つまり、そんなに悪い状況ではないと?
そんな事を考え出した矢先に地下15階層の開けた空間にゲートが開く。
そこを通り抜けてきたのは十名程の手勢を引き連れた鬼人族の長、ミツキである。
「昨日はご迷惑をお掛けしました、我が君」
彼女は恭しく頭を下げる。
「早速、侵攻部隊に加わらせるべく、寡兵ではありますが鬼人兵を率いてきました」
「あぁ、ありがとう」
「それと、上層の魔物の氾濫の件、私の手の者より聞き及んでおります」
鬼人族は多くの間者も有しているため、油断がならない。
魔族という括りでみれば身内なんだけどな……
「何か妙案でもあるのか?」
「えぇ、勿論に御座います。この一件、恐らくは人間達が使う“誘引香”が原因でしょう。昔、耳にした事があります。それは周囲の魔物を引き寄せ、狂乱させる禁忌の薬物だとか……」
「聞いた感じだと、迷惑極まりないものだが……一体、何に使うんだ?」
「例えば、敵国の領地の森にばら撒いたり、要するに嫌がらせですよ。事実、今も面倒な事になっておりますわね」
ダロスがミツキの言葉で顔を顰める。
「ミツキ殿、そこまで御詳しいのなら対策もあるのですわね?」
「結論から言えば、暫く“放置”する事ですね」
そう返されたスカーレットは腑に落ちない表情をする。
「先ず、“誘引香”の効力は数日で切れます。そうなれば魔物の増加に歯止めがかかるでしょう。さらに、魔物はなわばり意識の強い生き物ですから、過密度になればお互いに争い合ってその数を減らします……」
「で、ある程度安定したところで、上層への侵攻を再開すればよいと?」
「はい、その通りです」
「分かった、ミツキの案を採用しよう」
暫くは状況の推移を見守る事になりそうだ。
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