天狼、羨ましがる
「それにしても、瞳ですか……」
じーっとスカーレットがイルゼ嬢の碧眼を見る。
吸血鬼達の種族能力に魅了の魔眼などがあるため、彼女の瞳に宿る概念操作の力が気になるのだろうか……
なお、青銅のエルフの物の本質を見抜く“黄金瞳”、吸血鬼の“飛翔翼”、人狼の“獣化”などは種族全体に共通する種族能力に属し、その種族であれば大抵の者が扱える。
それに対して、概念装は主に自然や法則を“独自の概念で捻じ曲げる”ものだ。それは個々人により全く異なり、その効力も種族能力よりも際立ったものが多くなる。
「イルゼ、結局どんな概念を扱えるんだ?」
体力的な消耗もあったのか、彼女を侍従のマリが軽く支えている。
「んっ……そうですね、ヴィレダ殿の動きが一瞬だけ、酷くゆっくりに見えましたね。ただ、私もその感覚の中ではゆっくりしか動けないので、とっさに柄を前に出すくらいしかできませんでしたけど……」
「ふむ、見ている側からすれば最後の柄の突き出しの速度は異常だったが……」
「イルゼお嬢様、恰好良かったですッ!」
「う~ッ……躱す暇がなかったよ。でも勝ったのはあたしッ!」
ヴィレダがケモ耳をピンと立たせて胸を張る。
その銀糸の髪を撫でてやった。
「まぁ、決めつけずに色々とその概念操作の能力を試してみる事だな」
「イチロー、あたしもアレ欲しいんだけど!」
「私も欲しいですわ、おじ様」
いや、欲しいと言われてあげられるものじゃないんだけどな……
「魔族は基礎の能力が高いためか、概念装の発現率が低いからなぁ」
「でも、お父様は使えましたわ」
ブラドの“流転”も俺と同じであまり戦闘向けじゃなかったな……奴の概念装は水を即座に凍らせたり、その氷を一瞬で気化させたり、物質の状態を瞬間的に変化させる能力だった……あぁ、訂正しよう。
ブラドの概念装は時と場合によっては大きな戦果をもたらしてくれた。
「別に遺伝するものじゃないから、ブラドがそうだからといってスカレが概念装を得るかは分からない……発現条件が不明だしな」
「おじ様はどの様にして“造成”を得たのですか?」
「ひたすらこのダンジョンを皆と一生懸命造っている時、四六時中、どうしたら効率的に生活空間を確保できるか考えていたら、ある日できるようになっていた」
「参考にならないよ、イチロー」
二人とも概念装を得ていないので、羨ましそうにイルゼ嬢を見ており、彼女はバツが悪そうにしていた。
その微妙な空間と化した訓練場に転移ゲートが開き、コボルトの伝令兵が飛び出してくる。
彼の表情はこわばっていた。
「どうした、緊急事態か?」
「王様ッ、地下14階層から多数の魔物が溢れ出していますッ!そのどれもが異常な興奮状態で、魔人の制御を受け付けませんッ!!今はダロス様と麾下のミノタウロス兵で抑えておりますが、援軍をお願いします」
どうやら対処の必要がありそうだ……
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