魔王、越後屋に踏み込む
ミツキの屋敷からの帰り道で茶屋を見つけたので、そこで一息を吐く。
「はぁ~癒される。このみたらし団子、旨いな」
スカーレットとヴィレダに土産として買って帰ろう。
と思いながら、居住区画の街並みを眺める俺は気になるものを見つけた。
茶屋の斜め向かいの建物“越後屋”だ。
お主も悪よのぅ……
いえいえ、御代官様ほどでは……の”越後屋”である。
「ん~ッ、ん!!」
そこに何故か簀巻きにされて、猿轡を噛まされたイルゼの侍従マリが運ばれていくのが見えた。
「……うん、見なかった事にしよう」
ともいかないので、道端に置かれている桶に入った水に遠見の魔法で、越後屋の内部を映す……そこには鬼人達数名と確かにマリの姿がある。
「はぁ!?この件は打ち切りだって?もう、攫ってきちまったよッ!」
「ミカゲ殿、ミツキ姫のご判断です。今後は“表返る”と」
「で、どうするんだこの小娘は……切るか?」
「ん~ッ!?」
……取りあえず、助けに入るか。タンッと地を蹴り、2階の屋根瓦に足を掛けて昇り、外に面した障子を蹴破って中に入る。
「ッ!?」
「ん、ん~ッ!!」
そこには驚愕する鬼人4名と、期待に目を輝かせたマリの表情があった。
「シャッ!」
素早く短刀を引き抜いて掛かってくる鬼人の男の持ち手を蹴り上げると、手からすっぽ抜けた短刀が“とすっ”と天井に刺さる。
そのまま無手で突っ込んでくる事になった相手の顔面に拳をくれてやる。
「ぐはッ!?」
その鬼人の男は倒れるが、その隙に俺の側面に回っていたもう一人の鬼人が刀で切り掛かってくる。
俺は刀を鞘走らせながら抜刀し、その袈裟切りを逆袈裟で打ち上げ、がら空きになった胴を蹴り抜いた。
「くッ、ぐぁッ!」
腹を蹴られた鬼人が数歩、後ろによろめいて蹲る。
さて、残るは鬼人の男女2名か……
そこで勢いよく部屋の通路側の障子が開く。
其処には先ほど会ったばかりの鬼人の長ミツキの姿がある。
「……申し訳御座いません、手違いがありました」
彼女は流れるような動作でその場で正座をして、地に頭を擦り付ける。
所謂、土下座である。
「事情を説明してくれ」
「先ほど申しました万一の場合、人間達に取り入る算段の一つに御座います。隙を見て城塞か最下層の人間を連れてくるように申し付けていましたので……ミカゲ」
「はッ、地下49階層の商業区画にてこの者が一人でいるのを発見したため、身柄を拘束いたしました。あそこの治安維持は我らの担当のため、事に及んでも隠蔽が可能かと……」
……鬼人族に治安維持を任せるのが不安になってきたな。
まぁ、昔から内部の秘密警察的な側面もある組織ではあったが……
「連絡が間に合わずの手違いですが……事に及ぶ以上は覚悟をしておりますゆえ、腹を切れと言われれば切りましょう」
「……次は無い、俺の指示以外で勝手な行動はするな」
「ありがとう御座います……」
それにしても、やりづらい相手だな……この鬼姫。スカーレットが重要区画の警護に鬼人兵を使わずに人狼兵を配する理由も察しが付く……
もし俺が仮に魔王でなく、魔人の長であったなら……そうだな、無謀な戦いに身を投じるよりも別の道を探すだろうな。そう思えばミツキの考えを理解できない事も無いが……
「ん~ッ!ん、ん~!!(早く縄を外して下さい!!)」
面倒なので簀巻きのまま、マリを肩に担いで最下層へのゲートを開いた……
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