魔王、鬼姫を問い質す
俺は黒毛和牛もとい、黒毛のミノタウロスに確認する。
「ダロス、お前は魔物の制御ができるのか?」
「無茶を言わないでください、俺達は猛牛ですぜ?」
まぁ、そうだろうな。
「ヴィレダはどうだ?」
「ん~、ケイブウルフやヘルハウンドとかなら懐いてくれるけど、他は無理ッ!」
という事は今の侵攻部隊である猛牛重装兵と人狼突撃兵、コボルト支援隊の組み合わせだと一部の獣系を除き、魔物とも戦う事になるわけか……
「おじ様、吸血鬼兵も出しましょうか?」
「いや、ダンジョンの運営に関わるスカーレット達が長く最下層を離れるのは問題がある」
スカーレット麾下の吸血鬼は貴重な飛兵であると同時にこのダンジョンの行政を担当する役人のような存在であるのだ。留守にされたら俺が書類に殺される……となれば選択肢は限られる。
「妾を見るなレオン、青銅のエルフに戦闘はできんぞ?先日もエルミアの愚痴をたっぷりと聞かされたのじゃぁ……」
「勿論、期待していない」
「むッ、何か棘のある言い方じゃのぅ」
「魔人を随伴させる、構わないなグレイド?」
「分かりました、手配しましょう」
当面の侵攻部隊構成はこうして決まった。
そして、もう一つの問題を解決するため、俺は地下45階層へと足を向ける。そこは鬼人族の居住区画だ。
俺やスカーレットの居住区画とヴィレダの私室、最近ではイルゼ達の私室もある最下層、そのひとつ上の訓練場と工房区画は人狼兵の守備範囲であるが、それ以外の階層の治安維持は鬼人族の仕事である。
そう、それを理由にダンジョンの階層奪還に参加しない事が問題になっている。
どことなく和風の雰囲気がある鬼人達の居住区画を歩きながら、族長の住居を目指す。確か、今の鬼人の長はミツキとか言ったか?
目的の屋敷の門前で立ち尽くす。
どうやって呼ぶんだ?大声を上げるのか?
などと逡巡していると、屋敷の扉が開かれる。
其処にはミスリル製日本刀を腰に差した鬼人が頭を下げていた。
「どうぞお入りください、姫がお待ちです」
「……お邪魔する」
その鬼人に案内されて和室に通される。
暫くすると、黒髪ロングの着物の様な衣装の女性が入ってきて正座をした。
「お初にお目にかかります。鬼人の長、ミツキで御座います。よしなに」
「イチローだ、宜しく頼む」
「本日は如何な御用でございましょう?治安維持のお役目は果たしておりますれば……」
「その点に不満はない、聞きたいのは階層奪還に兵を出さない事についてだ」
ミツキはにっこりとほほ笑んでこう言った。
「先日までは我らがシュタルティア王国に敗北する確率が高かったからですよ。率先して戦えば印象が悪くなるばかりでしょう?人狼達のように」
此処にヴィレダがいたら荒れていただろうな……
「つまり、王国側に取り入る算段があったわけか……」
「どう転ぶかは分かりませんから、賭けになりますし、最終手段ですけどね。それでも種族の行く末を考えない訳にはいきません。お許しください、我が君」
ミツキが三つ指をついて頭を下げる。
「……という事は当てにしてもいいんだな?」
「はい、地下20階層の奪還が成るかをひとつの判断基準としておりましたゆえ……それに私も好き好んで裏切り者になりたくはありませんから、嬉しい事です」
彼女の飄々とした態度は最後まで変わらないのであった。
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