魔王、騎士令嬢に聞いてみた!
「ふむ、一度確認する必要があるか……すまないが、イルゼ嬢を呼んできてくれ」
「……(チラッ)」
ヴィレダが謁見の間の入り口を護る人狼兵に視線で合図を送ると、その内の一人が頭を下げた後に退出していく。
「それで、魔物の生態はどうなっているんだ?」
「はッ、コボルト斥候兵からの報告によれば、生息する魔物は我々の知る16年前より若干の変化はあるものの、脅威度に大きな変化はありません」
リーゼロッテがうんうんと頷いている。
「そもそも、“魔物の渦”は一定以上の脅威度の魔物は通れんのじゃ!あれは妾とブラドの傑作じゃからのぅ」
弱い魔物に関しては魔族が支配できるため構わないが、強力な魔物は本能に従い人も魔族も見境なく襲ってくる。そのために、あまりに強力なモノは放し飼いにできないのだ。
なお、地上から地下19階層までは魔物達を引き入れて、階層防衛に利用する構想で造られている。だからこそ、“魔物の渦”が侵攻してきた人間達に壊されていない事が理解できない。
そんな考えに至ったところで、人狼兵に連れられてイルゼ嬢が入室してくる。
「何か御用でしょうか?魔王殿」
「よく来てくれたイルゼ、少し確認したいことがあってな……ダンジョン上層の“魔物の渦”は知っているな」
「えぇ、進軍の際にはいつも苦労していました……前回は“遍在”の魔女殿の転移ゲートのおかげで楽だったのですけど、中隊規模を転移させられる魔術師は彼女以外にいないですからね……」
イルゼ嬢が辟易した表情になる。
「やはりか……」
寧ろ、進軍の際の障害でしかないよな……
だって、そのために配置したわけだから。
「じゃあ何で壊していないのさ、あたしが攻め手なら絶対に壊してるよ?」
「そうですわね……残しておく理由がありませんわ」
ヴィレダにスカーレットも頭に?マークを浮かべている。
「お二人とも、それは冒険者ギルドが“魔物の渦”の権利を持っているからですよ」
「権利、ですか?」
「えぇ、私達の感覚では、今から50年程前の戦いで大半の魔族は忽然と世界から姿を隠してしまって、その30年後にこのダンジョンの中層で発見されるわけですけど……その際、そこに潜っていたのが冒険者達だったのです」
「確かに、シュタルティア王国軍が来る前は装備がバラバラな冒険者たちが散見されていましたね……」
そこら辺の事情を俺は知らないが、うんうんとヴィレダも頷いていた。
「で、当時から珍しい色んな土地の魔物がダンジョンに生息しているという事で、此処は冒険者に人気の場所となっていました。色んな魔物由来の素材や食材が取れますからね」
「「「………」」」
そんな事になっていたのか……
「後から王国軍がダンジョンの調査攻略に乗り出した際に、“魔物の渦”を壊されると冒険者ギルドや冒険者たちが困ると言い出したのです。王国にとってもダンジョンは資源でもありますから、結果的に“魔物の渦”は残すとの約定を結びました」
「で、今も“魔物の渦”は残っているわけか……」
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