魔王、会社訪問を行う
新宿御苑を後にして、同じ新宿区のマンションの一室、合同会社“IRiA”の視察も行う。インターホンを押すと、イリアの声が聞こえてきた。
「はい、合同会社“IRiA”本店です」
「俺だ、様子を見に来た」
「あ、魔王様、今開けますね」
ガチャリと音を立てて扉が開き、見慣れた黒髪紅瞳の吸血令嬢が出迎える。
「いらっしゃいませ、散らかっていて申し訳ありませんが、どうぞお入りください」
開いたドアの隙間から先にリーゼロッテが室内に入っていく。
「お邪魔するのじゃッ!元気にしとるかのぅ、妾の同輩たちよッ!!」
「「「…………」」」
“返事がない、ただの屍のようだ”
「彼らは徹夜の仕事を終えたばかりなので、今は寝かせてやってください、リーゼロッテ様」
「つまらんのじゃ……」
「イリア、進捗状況は?」
「はい、ちょうど先ほど第一弾のソフトウェアになる勤怠管理システムが完成したところです。これをもう少し“ぶらっしゅあっぷ”して、中小の飲食店を中心に“カシワラ”が売り込みに行くと申しております……」
「そうか、バグのないようにテストはしっかりと頼む、信用は第一だからな」
「仰せのままに……」
ふと、視線を外すとリーゼロッテが目を輝かせて、机に置かれた1 / 144 RX-7〇を食い入るように見つめている。
「のぅ、イリア、これは何なのじゃ?」
「……連〇の白い悪魔と申しておりました……ミアが」
「ほぅ、恰好いいのぅ……これは超小型のゴーレムの一種じゃな?」
「いや、ただのプラモデルだ」
「ふむ、じゃがのレオン、小型のゴーレムという発想は妾にはなかったのじゃッ!意外と汎用性は高いかもしれんのぅ……」
「ところでシューレはどうした?」
「……昨夜、どこからか黒猫を拾ってきたので、捨ててくるように言ったら家出しました」
「はぁ!?」
「多分、お腹が空いたら戻ってくるでしょう」
どういう基準で人選したんだよッ!
「あの、魔王様?ここの住人が一匹ほど増えても構いませんか?」
「ちゃんと面倒を見させるようにな……」
「心得ております」
その日からマンションの一室に黒猫が居つく事になったのだ……
ダンジョンに戻った俺は謁見の間に主だった者達を集める。
地下19階層~10階層の状況の確認と今後の予定を立てるためだ。
「ダロス、上層の様子はどうなっている?」
「はい、コボルト斥候隊からの報告では地下15階層までに人間達の姿はありませんでした。なお、“魔物の渦”が破壊されずに残っている模様です。そのため、数人のコボルト達が魔物との戦闘で傷つきました……」
「何ッ?残っているのか“魔物の渦”が……」
“魔物の渦”はダンジョン地下1階層~19階層にかつて配置した魔物を呼び寄せる転移ゲートである。それは、その階層の生命から僅かずつ魔力を回収し、機能を維持する仕組みになっている。
真っ先に、人間達に壊されると思っていたんだが……
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