魔王、朝に”しらすおろし定食”を食べる
ダンジョン中央部の吹き抜けに面した窓からの光で目を覚まし、上半身を起こす。
確か、昨日はイルゼとマリの住居が完成して、その夜にリーゼロッテの襲撃を受けた。そこまで思い出して、隣を見ると彼女が丸まって眠っていた。
「……しかし、変わらないなリゼは」
リーゼロッテの姿は昔の記憶のままだ。
そもそも、エルフは長命だからな。
手触りが良かったのでその藍色の髪を弄っていると、リーゼロッテが目を覚ます。
「ふみゅ……おはようなのじゃ、レオン」
「すまない、起こしたか?」
「ん~、いつまでも微睡んでおると、ヴィレダあたりがくるやもしれんのぅ。ちょうどいいのじゃ」
彼女は小柄な体で伸びをする、因みに裸だ。
「風呂を借りるのじゃ、妾の付けた蒸気式ポンプのシャワーの調子も見たいからのぅ」
先日までの住居建設のついでに、俺の居住区の風呂に蒸気式ポンプを取り付けてもらったのだ。
以前のそれは火の魔法で蒸気機関の貯水部分を温めて蒸気を発生させていたが、エルミア考案の赤熱の魔石とオリハルコンの導管を採用したため、今は伝導プレートに手を当てて魔力を流すだけで、シャワーが出る。
まぁ、先にシャワー用タンクの水を温めないといけないが、それは俺の居住区の雑務担当の人狼兵がやってくれている。
「そうじゃ、レオン!久しぶりに妾が朝食を用意するのじゃ、嬉しいじゃろぅ?」
「あぁ、ありがとう」
それだけ言うと、リーゼロッテは浴室へ入っていった……
で、俺は今、東京の吉〇家でしらすおろし定食を食べている。隣には、魔法で髪を黒色にして、笹穂耳を隠し、肌の色を白人風に偽装したリーゼロッテもいる。
服装は此方に来ている部下に送らせていたのか、グレーのシャツに黒のスカートを合わせている。
「おかしいのじゃよ、確かに妾が料理するのは120年振りくらいなのじゃが……いくらなんでも酷過ぎじゃのぅ……食べられんかったのじゃ」
いや、それは俺が言う台詞じゃないか?
「…… 今まで、食事はどうしてたんだ?」
「工房の弟子たちが用意してくれていたのじゃ、それが無い日は食堂じゃのぅ」
まぁ、俺も自炊する習慣が乏しいから人の事は言えない……
「それにしても、初めて地球に来た理由が朝食とはのぅ……妾も予想できなかったのじゃ。しかし、旨いのぅ、このしらすご飯とやらは」
実は俺のお気に入りである。
「折角こちらに来たから、どこかに出かけるか?」
「それは良いのぅ、行先はレオンにまかせるのじゃッ!」
「そうだな、ここら辺で朝から行けると言えば新宿御苑か……今の時期ならイチヨウ桜や、フゲンゾウあたりの遅咲きならいい頃合いか?」
吉〇家の時計を見ると、時刻は惑星ルーナとは時差があるため11時になろうかと言うところだ。そのまま店を出て、徒歩で新宿御苑に向かうとやはり遅咲きの桜が丁度見ごろになっていた。
「おぉ~、これは桜じゃな?奇麗じゃのぅ……」
「あぁ、春はこれが無いとな」
朝日の中に桜が美しく佇む、まさに日本の心象だな……
「レオン、研究用に枝を採取してもよいかの?」
「ダメ、ゼッタイ」
何処に居ようと、リーゼロッテは変わらず我が道を行くのだった……
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