吸血令嬢、差し入れをする
東京は新宿区の3LDKマンションの一室、ここが合同会社“IRiA”の本店となっている。“IRiA”は先日できたばかりの真新しいITシステムソリューション系の会社だ。
代表取締役は柏原徳則となっており、社員として山之上光毅、アルバイトとして寺崎秋絵を雇用している。ことになっている、書面上は……
実態としてはこのマンションに詰める青銅のエルフ達が製品開発を行い、柏原が副業として営業活動をする形態となっている。なお、他の“チームイリア”のメンバーは必要に応じてヘルプに入る。上手く事業が軌道に乗れば、柏原などは今の会社を辞めて本腰を入れたいなどといっているようだ。
無職の山之上に至っては、内心でこの合同会社“IRiA”が成功し、自分もそこに呼ばれる事を期待している。
そんな“IRiA”の本店にて、ミア達、青銅のエルフ達はひたすらにキーボードを叩く。
彼らが開発しているのはSui〇aのような非接触型ICカードを利用した勤怠管理システムである。
「カズィ、S〇NYのICチップの制御用DLL組めたです~」
世界基準ではICチップと言えばTypeシリーズであるが、ここ日本ではS〇NY製が圧倒的なシェアを誇る。
「あぁ、プロジェクトフォルダに入れておいてくれ、直ぐにカード読み取りモジュールから読み込ませて結合テストをする。ベイ、打刻処理の制御まわりは?」
「問題ない、SQL文を発行するモジュールとも組み合わせ済みだ、SELECTとINSERT、UPDATEまで実装した」
「じゃあ、コンパイルするのです。ポチッと!」
画面上にコンパイルエラーの警告が流れる。
「何ッ、コンパイルできないだとッ!?」
睡眠不足でハイになっているようである。
別に、この“IRiA”がブラック企業なわけではない、元々が錬金と鍛冶の技術者である彼ら青銅のエルフ達は集中しだしたら止まらないのだ。
「べ~ィ、ここ、変数のキャスト間違ってるのです」
「ぐッ、凡ミスを……」
そんなこんなで試作型の勤怠管理システム“勤太郎”の待ち受け画面が起動する。そのアプリを動かしているPCにはUSB接続でICカードリーダーが繋がっていた。
ミアが恐々とICカードをそこに翳す。
ピロリンっと音が鳴り、画面に“おはようございます、ミアさん”の文字が表示された。
「「「おぉ~~」」」
「…… 何やっているんですか、皆さん」
「あ、イリア様、おかえりなさい」
「集中するのもいいですけど、ほどほどにしなさい。ほら、これは差し入れです」
イリアの手にはコンビニの袋が握られている。
そこには高級アイスクリーム、Haagen-D〇zsが6個入っていた。
「ところで、シューレ殿はどうしたのですか?」
「いつもの散歩もとい、見回りに出たのです」
シューレは魔人の長グレイドの息子で、今回はこの拠点の護り手として地球に来ている。ただ、日々、そこら辺をほっつき歩いているので困ったものだ。
「あの方にも困ったものですね……、いいですわ、彼の分は冷蔵庫に入れておきましょう。では、皆さん、休憩としましょうか」
こうして、合同会社”IRiA”が始動していくのだった。
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