吸血令嬢、無駄遣いを問い詰める
「~~♪、奇麗なものですね……」
レインボーブリッジの橋脚の上に腰掛け、美しい黒髪を風に靡かせながら、その紅の瞳でライトアップされた東京タワーを眺める者がいる。
そう、東京を満喫している吸血令嬢、イリアである。
「人の生み出す光がこれ程までに美しいとは…… 彼らに対する認識を改めなければなりませんね……」
彼女は腕を高く上に伸ばして体をほぐす。
「んッ~~、そろそろお仕事に戻りますか、敬愛する魔王様と我らが姫のために!」
イリアは“とんっ”と身軽に橋脚から飛び降りる。
傍からみれば自殺である。
彼女の背には黒い靄状の翼が展開され、風を捕まえて滑空していった。
目指すは彼女の地球での活動拠点である新宿区のマンションの一室だ。
帰宅した彼女が部屋に入ると、4名の青白い肌のエルフ達がリビングで四つん這いになっていた。彼らはリーゼロッテの厳しい選考を潜り抜けた青銅のエルフの精鋭である。
「?一体どうなされたのですか、皆さん」
エルフ達は無言で一枚のA4 用紙を差し出す。
それはここ最近、彼女らが購入した物品の一覧であった。
植物の種や其れにまつわる書物、発電機、磁石、PC周辺機器、それらに紛れて微妙なものが多々混じっている。
「この1 / 144スケールRX‐7〇というのは一体何なのです?」
そのイリアの問いかけに青銅のエルフの少女ミアがびくっと身体を震わせた。
「……連〇の白い悪魔なのです」
「悪魔?私達以外の同胞が地球にも?まさか、在来種ですか?」
「いえ、そういうわけではないです」
言葉を濁すミアに対して、イリアはさらに質問を投げかける。
「では、この宇宙戦艦ヤ〇ト(プラモデル)というのは?」
「そ、それは私じゃないのですッ!」
ミアは同僚の青銅のエルフの青年カズィに視線を向ける。
そのカズィは明後日の方向を向いて下手な口笛を吹いた……
「……つまり、貴方達は“あまぞん”でつい必要のないものを衝動買いしたと?」
「「「申し訳ありません……」」」
青銅のエルフ達はメカメカしいものが大好きなのだ、つい衝動的にポチっとしたに違いない。
「で、どのようにリーゼロッテ様に報告したものか悩んでいたわけですね……まぁ、誤魔化そうとするよりはいいでしょう。元々、貴方達にも“円”で給与が支給される予定ですから、そこから天引きします」
青銅のエルフ達は一様にほっとした表情をする。
「よかったです、送還されるものと思ってました……」
「ミア、今後は支給される給与から個人的に購入なさいな」
「はいです」
ミアはしゅんとうなだれてしまう。
「そのためにもしっかり稼いでもらわないといけませんね」
「イリア様、稼ぐとは?」
そのイリアの言葉にカズィが反応する。
「カシワラから合同会社の設立が認められたとの報告がありました。暫くは事業が軌道にのるまで、優先しろと我が君からも指示を受けています」
「魔王様が?」
「えぇ、期待に応えてみせてください♪」
そう言いながら彼女は微笑した。
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