魔王、さりげなく誘われる
最下層の謁見の間に戻った後、イルゼとマリをスカーレットに任せて中央工房区画に出向く。いつの間にか蒸気エンジン搭載の荷車が工房区画の街路を走っており、工房そのものにも蒸気機関を動力とした工作機械が普及し、ダンジョン中央部の吹き抜けのダクトからベントした蒸気や石炭の煙を吐き出している。
「段々、工房区画と言うよりは工場区画になってきたな……」
そんな事をぼやきながら中央工房に入ると、そこではリーゼロッテとその助手達が集まって何やら相談していた。
「今度は何やってんだ?」
「おぉ、レオン、ちょうど良いタイミングなのじゃ!」
そう言いながら彼女はA4 の資料を差し出す。
そこにはこう書かれている。
~地球の農産物の可能性についてなのじゃ!!~
ざっと目を通していくと、概ねリーゼロッテが何をしたいのかが分かった。
「これは、水耕栽培か?」
「そうなのじゃ、この水耕栽培というのは実に素晴らしいのじゃ、レオンッ!栽培条件を大きく緩和できるのじゃッ!」
いつもの如くハイテンションである。
「今のダンジョンの食糧事情は地下34~38階層の畜産区画と地下39層から42階層の農業区画で賄っておるのじゃが、ダンジョン内では集光拡散のクリスタルがあると言っても、作れるものが限られておるのじゃ……そこで、水耕栽培に適した“れたす”の種を地球に派遣した連中に送ってもらったのじゃッ!!」
「種をまく下地とか、液体肥料はどうするんだ?」
「下地は綿、液体肥料は食用油などから作れんこともないのぅ。まぁ、人間共をダンジョンから追い出して、地上に街でも作れるようになれば、日照が得られるから様々な作物を作れるのじゃが…… 今は少しでも農作物の品種を増やすに越したことは無いのじゃ」
「…… 色々と苦労をかけるな。ありがとう、リゼ」
「いいのじゃよ、たまに妾にかまってくれれば。お主は昔から戦いがあると妾のところに来んようになるからの……今夜はたっぷりと妾を可愛がっても良いのじゃよ?」
リーゼロッテが可愛く小首を傾げているが、あざとさが拭えない……
「それはそうとして、少し頼み事があってな」
「ん、何なのじゃ、妾に言うてみるのじゃ」
「二人程度が暮らせる住居を俺の居住区画に用意してほしい」
……………
………
…
大地に手を付いて意識を集中し、魔力を流し込む。
「ふッ!」
地面が僅かに揺れ、凹凸が無くなっていき、平らになり、最後に僅かに窪んだ。
俺の概念装、“造成”による自然物への干渉と加工だ。
「魔王殿、それは概念装でしょうか?」
「あぁ、そういえばイルゼも持ってるのか」
「いえ、幼い頃は英雄譚が好きで、概念装に憧れてもいたのですけどね……」
「お嬢様、概念装はいつどんな時に発現するかわかりませんから、可能性はありますッ」
ふむ、平和主義者のように感じたが、英雄譚ときたか……となれば、倒される役は俺なわけだ……
「レオン、こっちの準備もできたのじゃ。皆の者、基礎工事開始なのじゃ!」
その掛け声のもと、青銅のエルフ達が33階層の木材や工房区画で生産した鉄骨で住居の基礎を作っていく。
「今回は“つーばいふぉー”を試すのじゃ!!」
突貫工事で4日後にイルゼ達の住居は完成するのだが、それまではスカーレットの居住区画の一部屋を借りる事になる。
なお、完成した日の夜に ”妾は褒美がほしいのじゃあッ!” と、リゼに再び夜這いされる事になった……
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