魔王、猫を拾った気分になる
イルゼとその侍従兵マリを引き連れて、城塞の発令所まで移動する。
なお、他の従卒兵は士官室をまま利用して軟禁している状態だ。
俺達の視界にはコボルト兵が忙しなく走りまわる姿が見える。彼らは戦闘後の後片付けを行っている。そう、具体的には戦闘で亡くなった者達の遺体の運び出しである。
「……魔王殿、お伺いしても宜しいですか?」
「ん、何か気になる事でもあるのか、イルゼ」
「コボルト達が運んでいる王国軍兵士の亡骸はどうなるのでしょうか?」
「火葬して、埋葬する。そのまま捨て置く事はできない」
「火葬ですか?」
「ああ、教会は土葬を推奨していたな……」
確か、教義の中に“復活”の教えがあるから、肉体を焼却する火葬には否定的だったはずだ。
「でも、疫病で多くの死人が出た場合は昔から燃やしていただろ?」
「えぇ、その場合は宗教的な基準でなく、合理性を優先しますからね……ここでの戦闘で亡くなった者達はちゃんと扱ってもらえるのでしょうか?」
イルゼの碧眼が俺を見詰めてくる。
「墓地はつくるさ、合同だけどな」
「…… ありがとう御座います」
「……攻撃を仕掛けたのは俺達だ」
「いえ、それを言えば私達は侵略者ですから……きっと、争いに正しさなんて無いのです。皆、ただ、生きる事に真面目なだけですわ」
な、なんか調子の狂う奴だな。というか、イルゼは何故、ダンジョンの探索部隊に参加していたんだろうな…… 荒事を好むようには見えないが……
そんなやり取りの間に城塞の発令所に到着した。
その中にはスカーレットとヴィレダ、ダロスがいる。
「スカレ、エルミアはどうした?」
「“雷霆”のレポートをリーゼロッテ様に出すとかで、工房区画へ戻られましたわ」
「そうか、今回は彼女のおかげで随分と助かった。後で褒めてやらないとな」
「ところでイチロー、そっちの人間は何なのさ?」
「ひッ!」
ヴィレダに睨まれたマリが小さく悲鳴を上げた。
そのヴィレダのモフモフしっぽは不機嫌な感じで揺れている。
「私もお伺いしたいですわ、おじ様」
スカーレットも同様の雰囲気だ。
なんだろう、この捨て猫を拾って帰ったら怒られたような感じは……
「逃げ遅れた人間だ、捕虜に取った……」
「捕虜なんて取る意味ある? 今まで王国兵には仲間が殺られているんだよッ」
「そうですわね、私もヴィレダと同じ考えですわ。おじ様は甘すぎます。それにこのダンジョンに拘留施設はありませんし……どうされるおつもりですか?」
うぅ、二人のジト目が痛い…… 助けを求めてダロスを見るも、知らん振りをしている……
その後、二人の怒りに晒されながらも、何とか説得し、イルゼは俺が預かる事になった。
後で、俺の居住区画に彼女たちの住居を造るか…… “造営”の概念装で大まかに成形して、細部は青銅のエルフ達に任せよう。
そう考えながら、守備部隊を指揮するダロスを発令所に残し、俺達は最下層への帰路に就くのだった…… なお、スカーレットがダンジョン最下層に余計な住居を造る事に反対したので、イルゼとマリを除く従卒兵4名は城塞で生活してもらう事にした。
面白いと思っていただけたなら幸いです! ブクマとかで支援して頂けると小躍りして喜びます!!




