魔王、刑事ドラマをまねる
「お前達、無駄な抵抗はやめろ、田舎のおっかさんも泣いているぞ!」
取りあえず、刑事ドラマ風に降伏(自首)を勧めてみた。
よし、投降してきたらかつ丼を食わせてやろう。最近、ゼルギウスに頼まれて日本の料理本を買ってきてやったから、奴は色々と料理ができるようになっている。
「……母様は幼い頃に天災で亡くしています」
「そうか、すまない……」
普通に答えられてしまった。
「……ともかく、除装しろ。俺は構わないんだが、同族たちがな……」
剣先を俺に向ける金髪碧眼の女騎士に対して、周囲の魔人達が怒りを露にしており、一触即発の状態である。本来は配下を押さえるべき族長のグレイドまで鋭い視線をしている。
彼女はちらりと傷だらけの仲間を見る。
俺もその様子を窺うと、まだ少女といってもよい年齢の侍従兵が胸を刀で浅く裂かれた兵卒の傷を押さえて、必死に応急手当をしていた。
女騎士はため息を吐いた後にこう言ったのだ。
「彼らの安全と引き換えに、剣を捨てます……どうせ、抵抗できる状況ではありませんですから……」
「あぁ、それで構わない。皆、此方も武器を収めろ」
「はッ、ご随意に」
すぐさま、ここに集まっている魔人達が言葉に反応して日本刀“みすりる”を納刀する。それを確認した彼女は鞘に納めた剣を両手で捧げ持ち、差し出してきた。
それをグレイドが一歩前に出て受け取る。
その鞘には奇麗な意匠と家紋が刻まれていた。
彼女の従卒兵たちも、自分の武器を床へと投げ捨てる。
「しかし、お前ら、みんな満身創痍だな」
「…… 貴方がそれを言うのですか」
その状況であってもこの女騎士は比較的に軽傷だ、それだけ従卒兵の献身があったという事だろう。
「いや、悪気はない。ただ、貴方はこの者達に愛されているなと思っただけだ……“全てを癒す慈悲の光をッ!ヒールライト”」
「ッ、これは……」
周囲に癒しの光が満ちて、敵味方関係なくこの場にいる負傷した者達の傷を癒す。
「……感謝を述べるべきなのでしょうかね」
「おかしな事を言うな、元は俺達が付けた傷だろう?」
どうやら傷が癒えた事で彼女たちの警戒も幾分か和らいだようだ。此方の魔人達も俺がこの者達を受け入れる姿勢を示した事で態度を軟化させている。
「まだ、貴女の名前を聞いていなかったな。俺はイチローだ、貴女は?」
「イルゼと申します、魔王殿」
“殿”という敬称にグレイドが反応しかけるが、それを手で制する。彼女もシュタルティア王国の軍人として、魔王に“様”なんてつけられないだろう。
「では、貴君らを捕虜として丁重に扱おう、最近はダンジョンに籠りっきりでな、地上の話など聞かせてほしい」
こうして、俺はイルゼ他5名の身柄を預かる。
この行動が元になり、後でたっぷりとスカーレットとヴィレダに怒られる羽目になるわけだが……
この判断は地上に出た後、思わぬ幸運をもたらす事になるのだった。
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