魔王、青銅娘を放置する
「この機に乗じる、ダロスッ!」
「御意に…… ミノタウロス重装兵、前進ッ!城塞に取り付くッ!!」
「「「うぉおおおおッ!!」」」
ダロス麾下の重装歩兵隊が盾とガンランスを“ガンッ”と一度打ち鳴らして前進を始める。
その中には先の地下22階層の戦いに参加した者だろうか? 第2工房製作の対雷撃兵装“避雷盾”を持つ姿も混じっている。
「人狼隊、出るよ!さっきの矢の仕返しをするんだ、あたしとベルベアに続けッ!」
「「「ウォオオーーンッ!!」」」
前衛の猛牛歩兵隊と連動して、ヴィレダ麾下の人狼突撃兵隊も遠吠えの後に前進を開始する。ミノタウロス兵と人狼兵は地下30階層、22階層の戦いを経験した事により連携の精度を上げてきている。
「グレイド、魔人兵も随伴して城壁からの弓矢に対する矢避けの魔法をかけてやれ」
「はっ、仰せの通りに……」
少し先行する人狼兵の両翼に向けて魔人兵達が二隊に分かれて駆け出す。
「おじ様、私達は城壁の王国軍弓兵に対応しますわ。よろしいでしょうか?」
「頼む」
「ゼルギウス、半数を預けます。左翼から攻め上がってください」
「はい、お嬢様」
「では、私も行って参りますね」
不意にスカーレットが密着して、カプッと俺の首筋に噛みつく。
そのまま軽く吸血してからばさりと翼を羽ばたかせて、宙に舞っていった。
「………さて、人狼達に混じるとするか」
俺もその歩みを城塞へと向ける。
「あのぅ~、私達はどうすればいいんですぅ……も、帰っていいですか?」
その場に取り残されたエルミア達、青銅のエルフは手持ち無沙汰に立ち尽くすのだった。
……………
………
…
時間は先程より、少し遡る。
その時、城塞内の一室では聖女ミリアと遍在の魔女ディアナが先ほど負傷した弓兵のうち、助かる余地がある者から優先して看護兵と治療を行っていた。現在の指揮はこの城塞の守備隊長に預けてある。
「全てを癒す慈悲の光を……ヒーリング」
「ッぅ……ありがとう御座います、聖女様」
「いえ、当然の事です」
礼を述べる王国兵に微笑みを返して、ミリアが次の負傷者を探していると不意に轟音が鳴り響いた。
「こ、今度は何なのですッ!?」
思わず、彼女の声が荒らげられる。
その轟音に反応して、ディアナは遠見の魔法を行使して、城門周辺の映像を部屋の大鏡に映していく。
「なッ、な、何よこれ!?」
そこには無残に破壊された城門と、周囲に転がり呻き声を上げているのか微かに口を動かしている王国軍歩兵の姿が見える。その中には明らかに致命傷を負っている者も多い。
遠見の魔法を操り、敵の様子を確認する。
どうやら、城門の破壊に伴って全軍前進を始めている。
「ミリア、魔族の連中が攻め上がってくるわ」
「ッ、看護兵の皆さん、此処と城門付近を頼みます。私達は迎撃にでますッ!」
ミリアとディアナは城壁へと駆けていった……
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