魔王、城門を攻略する
「イチローおじ様、これで少しは時間が稼げるのでしょうか?」
「あぁ、十分だ。上手くいっていれば、城塞内の術者に負傷を与えているはずだ」
転移ゲートの向こう側が見えない様に術式が組まれていたので、効果の観測はできないがな……
「エルミアッ!今のうちに“雷霆を”最前列に持っていくぞッ!!」
「はいですぅッ!こうなれば、やってやるのです!!」
エルミア達、青銅のエルフは若干ビビリながらも、極小型の蒸気機関車のような4輪駆動車を手押ししていく。その大きさは全長1.2m程であり、それが合計4つ存在していた。
人狼兵が道を開け、その間を彼女たちが押す“雷霆”が進む。
その周囲にはスカーレット麾下の吸血鬼達が結界を展開していた。
やがて、それは最前線で盾を構えるミノタウロス兵のところまで到達して彼らも道を譲る。
そして、城塞と城門までを遮るものは無くなった。
「皆、赤熱の魔石を起動して、蒸気を発生させるのですぅッ!!」
エルミアの指示の下、青銅のエルフ達が“雷霆”の魔力供給回路に手をあてる。そこからオリハルコンの導管を経由して、蒸気エンジンに搭載された赤熱の魔石に魔力が送られた。
この段階では加減弁とブレーキにより、蒸気エンジンの内圧は高まるものの、ピストンは動作していない。
「先端部の保護蓋を外してください!」
エルミアのその言葉に従い、青銅のエルフの技術者が“雷霆”先端部を護る鉄製キャップを外すと、そこに銅製の突端が現れる。
「加減弁を6割まで開放、後、ブレーキ解除しますぅ!!吸血鬼の皆さん、もしもの時のために多重結界を周囲にお願いします……うぅ、失敗時に巻き込まれるのは私達だけで十分なのです……」
彼女の心配をよそに一定間隔に並べられた4台の“雷霆”が軽快に蒸気エンジンを作動させて動き出す。それは城塞周辺の背丈の低い草の生えた草原を城門に向けて疾走していく。
「ピリオドの向こう側にいくのですぅ!」
エルミアの叫びに応えるように“雷霆”は加速し、シュタルティア王国兵が警戒しながらその様子を窺う中、城門の近辺に衝突する。
その瞬間、ドォオオォーンッ!と爆音を響かせて最初に城門横の壁に衝突した“雷霆”が爆発を起こし、連鎖的に残りの雷霆を誘爆させ、轟音を轟かせる。
「うぉおおーーッ!?」
「ぐわぁああッ!!」
城門の裏に待機していた王国軍歩兵1小隊50名を巻き込んで、城門が吹き飛んだ。
そう、“雷霆”とは小型の蒸気機関車に前進するだけの必要最小限の機構を備え、後は巨大な薬室に黒色火薬を詰め込み、その先端部に点火薬としての雷酸水銀、着火用の雷針を備えた“自走式爆弾”なのである。
それは見事に地下20階層の城塞の門を破壊する。
「不発になった場合、ファイアバレットでも撃ち込むかと思っていたがその必要はなかったな……」
「…… 恐ろしいモノですね、爆弾というのは」
「う~ッ、耳がビリビリする」
スカーレットとヴィレダがややひきつった表情でその光景を眺めていた。
「うぅ、折角の蒸気エンジンを爆散させるのは忍びないのですぅ……」
青銅娘はそんな事を呟いたのだった。
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