魔王、魔女に不意打ちされる
「ダロス、ミノタウロス兵を前面に出す、盾になってもらうが構わないか?」
「承知しました、元よりそのつもりに御座いますれば…… 野郎共ッ!二列横隊だ!!俺達の精強さを見せつけるぞッ!!」
地下21階層~20階層の連結部付近の草原で隊列を整える。
「ヴィレダの人狼突撃兵は主攻だ」
「ん、当然だよ!」
重装のミノタウロス兵の背後にAK‐46と銃短剣を装備した人狼達が続く。
「助攻にスカーレットの吸血飛兵を用いる、状況に応じて両翼に散開して機動攻撃をしてくれ。序盤は青銅のエルフの護衛を頼む」
「はい、おじ様の仰せの通りに……」
人狼兵達から少し後方に吸血鬼達が隊列を組み、その中央にエルミア達の姿が見えた。
「グレイド、魔人兵を両翼に回す。基本は結界防御を担当してもらうが、状況次第で遊撃に回ってもらうぞ」
「お任せください、族長」
「……今の魔人の長はお前だろう」
「いえ、復活された我が君を差し置いて魔人の長は名乗れません……」
「…… 魔王は自種族の長を兼ねない。依怙贔屓になってしまう可能性があるからな」
「申し訳ありません、認識を改めます」
跪いて首を垂れる彼の腰元には例のミスリル製日本刀が見える。
ラーガットの“魔王様の愛刀”とのキャッチコピーを真に受けた魔人達は皆一様にこの日本刀“みすりる”をこぞって装備していた……
その後、コボルト兵も両翼の魔人の指揮下に組み込む。これで一応、防御を念頭に攻撃に転じられる陣形を組み、少し先の第20階層の城塞に向けて進軍を開始する。
その様子を城塞の一室から遠見の魔法で眺める者がいる。
遍在の魔女ディアナだ。
「ミリア、仕掛けるよ、構わないよね?」
「えぇ、では皆さん宜しくお願いします」
「此方と彼方を繋ぐ、転移法陣ッ!」
ディアナの概念装“遍在”は“何処にでも存在する”という意味合いを持つ。この異能により彼女は本来ならば色々な手順を踏むため、多少の前兆を伴うゲートを瞬間的に開く事ができる。
室内の床に広範囲の転移法陣が浮かんだ。
……………
………
…
もう少しで、城壁に陣取るシュタルティア王国軍の弓兵の矢が直射で此方に届こうかという距離になる。
その時、それは唐突に起こった。
「なッ!?」
僅かな違和感に従い空を見上げると、何の前触れもなくゲートが開く。
背筋に悪寒が走った俺は隣のヴィレダを引き寄せ、瞬間的に手を真上に上げて結界を張る。次の瞬間、上空のゲートから数十本の矢が降り注いだ!!
「ぐッ…」
「きゃう!」
「ぐぅううッ……」
「がぁああッ!」
結界を張った俺達はともかく、周囲の人狼兵の数名が矢を受けて倒れた。
「くっ、転移ゲートを経由してまさに矢の雨を降らせているのかッ!」
やり返したいところだが、この階層の遠見と転移を阻害する魔導装置を掌握しているのは王国軍であり、此方は転移ゲートを開く事ができない……
その頃、城塞の一室では第二射の準備を終えた弓兵小隊50余名が弓矢を床に向けて構え、転移ゲートが開くのを待ち構えていた。
「第二射いくよ、此方と彼方を繋ぐ、転移法陣ッ!」
再び、遍在の魔女の声が室内に響くのだった。
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