魔王、青銅娘を拉致する
地下20階層は城塞がある。
元々は上階から来る侵入者に対しての防衛拠点であったが、今はシュタルティア王国軍が此処より下の階層に進軍するための橋頭堡となっていた。今現在は斥候の人狼兵からの報告によると王国軍1個大隊が詰めているらしい、ご苦労な事だ……
おかげで、此方も兵力を集めるのに時間がかかってしまった。
王国軍500余名に対して、此方は人狼80名、吸血鬼71名、魔人40名、ミノタウロス52名、コボルト100名、他4名の約350名程だ。なお、人狼と吸血鬼には中央工房で製作された“AK‐46(偽)”が支給されている。
リーゼロッテ曰く、
「弾丸を真っすぐ飛ばすには”らいふりんぐ“が必要なのじゃが……これの再現が難しくてのぅ」
ライフリングとは銃身内部に刻まれた溝である。これが射出される弾丸に回転を与えて、真っ直ぐに飛ばすのだ。
「一応、”ぼたんらいふりんぐ“を施したんじゃが……腹立たしいことに精度がわるいのじゃあッ!妾も頑張ったんじゃよ?でも、レオンの頼み事はどれも難しいのじゃ……」
……リーゼロッテには頭が下がる思いだ。
ともかく、訓練場で試射した際は特に大きな問題は無かったので良しとしよう。
それに加え、もう一つ城塞攻略用の秘密兵器を用意している。
「…… おじ様、進軍準備が整いました」
「イチロー、人狼突撃兵はいつでも出れるよ」
「……(コクッ)」
AK‐46を構えたヴィレダの後ろでいつもの如くベルベアが頷いている。たまには喋ると聞くが、俺の知る限り彼女の反応は首を縦に振るか、横に振るかしかない…… いつか俺もその声を聴けるのだろうか?
「ちょ、ちょっと待ってくださいですぅッ!!」
俺の後ろからエルミアが叫ぶ。
「なんで、私まで連れてこられてるんですかッ、危ないでしょう!」
「……アレに何かあったとき整備できるのはお前だけだろう」
「それはそうですけど……うぅ、ブラックな職場なのですぅ……」
「スカレ、エルミア達を護ってやってくれ」
「はい、おじ様」
準備万端ということで訓練場区画に集合した俺達は地下21階層にゲートをくぐって移動する。しかし、これだけの人数が通るゲートを開くとなると、これだけで疲れるな……
隊列の最後尾に自軍の内訳の中で“他4名”扱いになるエルミア達、青銅のエルフ第3工房区画の技術者の姿もある。
いつも工房区画に引き籠っている彼女たちは皆一様に嫌そうな表情でゲートを抜けていく。そして、俺もそれに続いた。
地下21階層に移動した後、隊列の中央まで移動すると、隣にダロスがやって来る。
「我が王よ、やはり階層連結部にシュタルティア王国軍の姿はありません」
「まぁ、城塞があるのに戦力を分散する意味がないからな。では、悠々と20階層に上がらせてもらおう」
こうして、ダンジョン中層と上層を隔てる地下20階層での戦いの賽は投げられる……
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