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天狼、盲点を指摘される

「こんなものかな…… ベルベア、魔導装置の掌握をお願い」

「…… (コクッ)」


 無言で頷いた黒狼娘が配下と魔人兵を引き連れて目先の中央部へ向かい、入れ替わりで天狼娘の下に黒毛のミノタウロスがやってきた。


「地下21階層への侵攻は少し待ってくれ。此方にも被害が出ている」


「そんな無茶は言わないよ、ダロス殿」


万一に備えて態勢を整えた方が賢明であり、此処は魔導装置の特性から、攻め難く護りやすい事をヴィレダは理解している。


故に人狼族の一個小隊を警戒に当て、残りの魔族兵達と共に少々休息を取っていると、魔導装置に取り付いていた人狼兵の一人が歩み寄ってきた。


「族長、魔導装置を管轄下に取り返してゲートを開けるようになったので、魔王様に報告に行きたいのですが……」


「ん、イチローに宜しく」


言付けた彼女は魔人兵数名に指示を出し、魔力共鳴による魔法でゲートを開かせて、最下層に伝令を送り出す。


それを以て当面の事後処理が済んだ事となり、思考が自然に先へと進んで、視線も上層へ至る連結部に吸い寄せられていく。


「そう言えば…… 次の階層ってどんなだっけ?」

「………… 真っ暗」


いつの間にか傍にいたベルベアの言葉通り、1階層上には暗闇を作る魔導装置があった。


「あ~、そういえばそうだったよ。松明、持ってきてたかな?」

「あるにはあるが、そんなに数は無かったはずだ」


近場で腰を下ろして休んでいたダロスが困り顔で答えるも、聞き耳を立てていた若い人狼兵がおずおずと口を挟む。


「ヴィレダ様にダロス様、よく考えれば人間達は我々よりも目が悪いはずです。暗闇の魔導装置を使っていないのでは? 若しくは使っていても時間稼ぎでしかなく、兵を伏していない気もするのですが……」


「確かに……」


「…… 偵察を出すよ、ベルベアッ」

「……!(コクッ)」


俄かに慌ただしく動き出した後、臨時編成された偵察部隊は松明の灯を頼りに無人の地下21階層を進み、要となる魔導装置を掌握した。


なお、真直に迫った地下20階層は地上からの侵攻を防ぐための城塞を持つ。


ただし、現在は人間達の橋頭堡になっており、内部にはシュタルティア王国軍の一個大隊、総勢で500余名が詰めている。


 そんな場所の執務室で椅子に腰掛け、“緩衝”の聖女ミリアは書類束から目を逸らして、人知れず重い溜息を吐く。


「聖騎士殿は一度決めたら人の話を聞かない御仁でしたが…… 存外、しっかりと職務はこなされていたようですね」


独白した彼女は神術師であって事務官ではないものの、ここ最近は暫定的な指揮官として大隊の運営を取り仕切っていた。


これまでの苦労を考えれば、地下30階層の戦いで落命した聖騎士ラトスは確かに指揮官として有能だったのだろう。


彼さえ生きていたらと詮無き事を考え始めた頃合いで、執務室の扉が軽く叩かれる。


「ミリア、入るよ?」


返事を待たず、堂々と部屋へ入ってきたのは“遍在”の魔女と呼称されている魔術師ディアナだ。


「何か、また問題ですか……」


こめかみを揉み解したミリアは机にぐで~と突っ伏す。そして、もう面倒な話は聞きたくないとばかりに両耳を手でそっと塞いだ。


ただ、本当に職務放棄するつもりは無いため、ちゃんと指の隙間を広げて声が届くようにしていた。


「今度は、酒が入った兵士が暴れてるとか、物資がちょろまかされているみたいな平和なものじゃないわよ…… 22階層と21階層への遠見の魔法が妨害されるようになったの」


「では、22階層の部隊はもう……」

「全滅じゃないかな」


「ど、どうしましょう!? 20階層の階段部分に兵を出しましょうか?」


先程までのだらしなさを吹き飛ばし、今度は挙動不審に慌てだした聖女にディアナがやや冷たい視線を投げる。


「はぁっ、何のためにこの要塞まで撤退したのよ…… 兵を分散するよりは立て籠もった方がいいわ。援軍の要請はどうなってるの?」


「…… 都市エベルまでは到着しているようですが、ダンジョンに入るのはもう少し掛かるそうです」


「まだ王国軍の方が戦力は多いから、油断しているんでしょうね…… 個人的に退路の確保も考えるべきかしら?」


遍在の魔女が頭を抱えて、さっきの聖女と同じく溜息を吐いている間も、彼女達が敵対する魔王麾下の魔族達は着々と進行の準備を進めていた。


……………

………


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