天狼、風の階層で足止めされる
故にそれを待って地下20階層の防衛施設へ進軍する事になっているが、攻め入るには橋頭保が必要となる。
(さて、ヴィレダ達は首尾よくやっているだろうか……)
おもむろに魔王が上を向き、此処からは見えない上層へ思いを向けていた頃…… 当の地下22階層では天狼娘が不機嫌な唸りを上げていた。
「う~ッ、弾が流れるッ!」
この階層はダンジョン中央部から強い風を吹き込ませる魔導装置が稼働しており、今はその制御をシュタルティア王国軍に奪われている。
「向こうも…… 魔導装置、起動中は…… 矢、流れる」
苛立つヴィレダにそう返事を返すのは副官で従妹のベルベアだ。
彼女は別に喋れないわけではなく、極偶に口を開くのだが、特に規則性は存在しない。人狼兵達の間ではベルベアの声を聴くとその日は良い1日になると噂されていた。
なお、この階層は床面積が極端に少ない。寧ろ、広大な空間に幅2~3メートル程の橋が縦横に架かっており、その上を進まなければならず、足元からは下の23階層が見える。
「なんか、イチローの悪意を感じる階層だよ」
「…… (コクッ)」
敵の侵攻を想定した場合、その速度を遅らせる仕掛けも必要なのだが、そこを奪われた場合は逆に自分たちの侵攻が妨げられてしまう。そして、此処の少な過ぎる床面積は大人数の部隊を展開させないための仕掛けになっている。
そんな状況下でシュタルティア王国軍のクロスボウ部隊30名程が強風を吹かせる魔導装置周辺に展開しており、後方には結界魔法を扱える魔術師10名程が控えていた。
「ヴィレダ様、近接戦闘しかないのではありませんか?」
側に控える人狼兵が自分の腰元に手を当て、静かに話し掛ける。
そのベルトに通された剣帯へ収まった三角形の形状をした刃は特徴的で、中心部に口径の大きい銃口を備え持つ。元はミノタウロス族に支給された武装ガンランスを人狼族用に改良した新武装の短剣銃だ。
「…… 風の制御が向こうにあるから接近はリスクが高いよ? あいつらの射程範囲内で足止めされたら護りに支障が出る」
「…… 無理…… 良くない… めッ」
「すいません、短慮でした」
暫時に思考を巡らせて難色を示したヴィレダに窘められ、ベルベアに怒られた人狼兵はしゅんとなった。
「ベルベア、ミノタウロス兵達に前面へ出てもらって進むべきかな?」
「…… (フルフル)」
同族達の損害を減らすため、ミノタウロス兵に前へ出ろとは言えず、ベルベアは無言で首を左右に振る。
一応、天狼娘の父親であるマルコシアスが魔王の親友だった事もあり、人狼族は重用されているが、他種族に横暴な命令をする権利など無い。
それを察して、猛牛達を率いるダロスが大盾を翳しながら進み出た。
「ヴィレダ殿、一向に構わんよ…… 俺達が出よう。ここで足止めされる訳にもいかないだろう。王は地下20階層までの道を開けと言われたのだ」
「良いの、ダロス殿? 矢の被弾は避けられないよ」
「ここまで防戦ばかりで同胞を失ってきた…… それを思えば攻めに転じられるだけでもましだ。それに射程距離まで近づけばこいつが使える、多少負傷する程度で済むだろう」
不敵に嗤う黒毛のミノタウロスが掲げるのは専用の無骨なガンランスである。
そもそも、彼らは筋肉質で大きな体躯をしているので、重装を所持できる反面、不器用で飛び道具などの扱いは上手くない。だた、このガンランスはセーフティーを外して、槍柄のボタンを押し込むだけで、単発であるが強力な射撃が可能だ。
「分かった、頼りにさせて貰うよ」
「……ッ!(コク!)」
ヴィレダ麾下の人狼兵20名が自動小銃を構え直して隊列を組み、大盾を構えたミノタウロス兵の後ろに付く。さらに後衛として魔人を配した分隊を4つ作り、4本の比較的幅が広い橋を選び、それぞれ慎重に前進を始めた。
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