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魔王、青銅娘に蒸気バイクを語られる

後日、第三工房区画の自室にて彼女は激しく凹んでいた。思わず項垂れて四つん這いになってしまうくらい。


彼女の手元にはどこかで見たA4のプリントが握られており、そこには 『~皆、魔王からの通達なのじゃッ!~』との表題が書かれている。そう、地球に行く青銅のエルフを選抜する告知文書である。


なお、裏にはエルミア直筆の文字でエンジン出力予測の計算式が書き込まれていた。彼女が蒸気自転車の開発に没頭している間に、世間はお祭り騒ぎになっていたのである。


「ま、まったく気が付かなかったよ…… 折角、向こう側に行くチャンスだったのに……」


第四工房区画のラーガットと異なり、彼女は地球や日本に興味がなかったわけではない。寧ろ、本場の自動車やバイクなどには興味が尽きない。


「でも…… ふ、ふふっ、ダメ、笑いがとまらないよぅ」


によによするエルミアの視線の先には、蒸気エンジンで動く自転車がある。


ママチャリを参考に車体を作って蒸気機関を取り付けたのだが、ブレーキや速度調整用の加減弁を操作する仕組み、動力に対する逆転機などを加えていった結果、自転車というよりはバイクに近くなっている。


それらは地球で初期の機械的乗り物である蒸気自動車を参考に作り込まれていた。


「はッ!? にやけてないで魔王様の所に報告に行かなくちゃ」


彼女は試製蒸気バイク“鉄郎”の設計資料とマニュアルを手にして、1階層下にある謁見の間へ向かうのだった。


……………

………


「ふむ、結局、バイクになったのか?」


「なのです、第三工房区画に預けて頂いたトヨダのピックアップトラックを分解した際、膨大な部品数の多さに無理だと思いましたので…… できる限りシンプルな地球製の乗り物をベースに蒸気機関を取り付けたのですよぅ」


手渡された資料とマニュアルで操作方法を確認する。


「まぁ、20世紀初頭ではガソリンエンジンと覇を競っていたくらいだから、蒸気エンジンでもいけるんだろうな……」


「魔王様、そのうち石油探しに行きましょうよぅ」


残念ながらダンジョン内では石油が採掘できなかったのだが、砂漠地域に行けばこの世界でもあるのだろうか? 向こうの世界で買う事も出来るものの、大量に購入して此方に持ち込むのは難しい。


まぁ、ダンジョン内すら全階層掌握できていない今の状態で考える事ではないな……。


「ところでエルミア、1回の給水でどれくらい走れるんだ?」

「実はそれもテスト項目なのですよ」


「因みに燃料は石炭か?」


「いえ、魔力を通すと赤熱する魔石がありますよね? アレを蒸気エンジンに組み込んでいます。オリハルコンの導管をハンドルに仕込んで、赤熱の魔石まで魔力経路を繋ぎましたぁ。まさに、魔法と科学の融合なのですぅッ!」


ぐっと握り込んだ拳を天に突き出したエルミアが何やら感極まっていたが、彼女の上役にあたるリーゼロッテとの付き合いで、青肌エルフの勢いには慣れているため気にせず言葉を続ける。


「ふむ…… 赤熱の魔石を組み入れたなら、蒸気エンジンの駆動には魔力操作系の技能が必須なのか?」


「あ、はい、でも私達のような魔族なら問題ありません」

「時にエルミア、その蒸気バイクとやらに危険は無いのですか?」


矯めつ眇めつ蒸気バイク“鉄郎”を眺め、傍らに立つ吸血姫が此方も気掛かりだった安全面を問う。


「工房で新型蒸気エンジンのテストもしていますから、無いとは言えませんけど大丈夫ですよ、スカーレット様」


「イチロー様、如何しましょうか? 現状、ダンジョン内では活躍の場が少なそうですから、急いで実用化させる必要は無いと思いますけど……」


「まぁ、折角エルミアが造ったんだ、乗ってみようじゃないか」

「やったぁ、さすが魔王様~♪」


嬉し気に笹穂耳を上下に動かす彼女に急かされ、俺はそれを試すに適切な場所を遠見の魔法で探し、地下30階層の鉱山区画へゲートを開いた。此処ならば多少の広さの平地もあるので、蒸気バイクの試運転もできる。

面白いと思っていただけたなら幸いです!

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