魔王、青銅のエルフを募る
後日、彼女と下級眷族の働きもあって、都内に地球側の拠点となるマンションが確保できた事により計画は進み…… 地下ダンジョンの工房区画全域に衝撃が走る事態となる。
それは青銅のエルフ達総勢四百数十名に配られたA4のプリント一枚から始まった。
~皆、魔王からの通達なのじゃッ!~
先日、兼ねてより計画のあった惑星“地球”の活動拠点ができたのじゃ!
この“さんえるでぃけぇ”の拠点に妾たち青銅のエルフが4名程、技術開発研究と企業活動? のために常駐することになったのじゃ。そこで、今回は希望者の応募を受け付けることになってのぅ…… 選考は妾に一任されておる。
全員の応募を受け付けてやりたいのじゃがの…… 第一~第四工房区画の工房長と副工房長はダメなのじゃ。妾もレオンに“行きたいのじゃ”と可愛くねだってみたが無理じゃった。
なお、選考基準は地球科学に対する見識、日本語能力、今までの実績なのじゃ! 皆、奮って応募するがよい!
という文面を読んだ主任技術者以下の青銅のエルフ達は大いに沸き立ち、各工房区画の副工房長以上はガックリと肩を落としたのだった。
結局、応募可能なほぼ全ての者達が申し込みを行い、倍率100倍超えの難関を突破した青肌エルフの精鋭4名が選ばれる事になった。
そんなこんなでお祭り騒ぎになった工房区画において、それに参加せず黙々と自らの道を行く者達の姿もある…… 例えば、制式日本刀“みすりる”の製作者でもあるラーガットなどだ。
日本刀“みすりる”は魔王様の愛刀というキャッチコピーと共に第四工房区画で販売されており、吸血鬼や魔人、人狼を始め、ダンジョン内の治安維持に従事する鬼人たちに大好評となった。
つい先日、鬼人族の憲兵隊に正規採用されたので、決して彼が勝手に“制式”と言っているだけではない。
現在、ラーガットはその鬼人族の支援を受けて、オリハルコンを用いた試作型日本刀“おりはるこん”を鍛えている。
その開発に必要な資材と資金は鬼人族から提供されているものの、彼の中では完成品を先ず魔王様に献上する事になっていたりする。まぁ、それならば鬼人族達も文句は言わないだろう。
本来ならば彼らの族長に渡すべきであるのだが…… ともあれ、青銅のエルフの青年ラーガットは鍛冶師としてある種の成功を収めていた。
それともう一人、今回の地球派遣騒ぎに影響されない青銅のエルフ女性がいる。第三工房区画の彼女の作業場には無残に分解されたトヨダのピックアップトラックの残骸があった。
「…………」
その女性、エルミアは無言で新型蒸気エンジンのメンテナンス作業に勤しむ。これまでの試作型では、彼女が望む馬力を車体に搭載可能なサイズで出す事は出来なかったが…… 先日その解決手段が中央工房より提示された。
第四工房区画のラーガットが地下33階層の人狼居住区の森林から樹脂を持ち帰り、青肌エルフの族長であるリーゼロッテが天然ゴムの製造及び成形に成功したのだ。
この天然ゴムを蒸気エンジンのパッキンに使用する事により、蒸気漏れが大幅に改善して出力が上がり、さらに同じ素材によるベルトも動力の伝達効率を改善している。
結果、小型動力の研究は大いに進んで実用段階に漕ぎ着けた。そもそも、タイヤの製作段階に進めばゴム素材の開発は必須で、腰を据えて取り組もうと思っていた矢先、手間が省けたので上機嫌に長い笹穂耳をピコピコさせている。
「ん~、これで蒸気エンジンは何とかなるかな? 後は“おふろーどたいや”と“かーぼんぶらっく”を造るのですぅ!」
意気込むエルミアの前にはサイドカーが付いた自転車のようなものがあり、車両側には蒸気エンジンが“でん”と載っていた。彼女が情熱を傾ける研究の成果はもう少しで形になりそうだが……
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