魔王、チームイリアを招集させる
そんな経緯を辿る新武装の試し打ちが訓練場で行われていた頃より、少し時間が進み、都内某所の居酒屋に複数の男女が集まっていた。
一見すると年齢はバラバラで何の共通点も無い者達がお酒を片手に一言も喋らず、黙々とつまみを齧っている。
強いて共通性を見いだそうとすれば、お酒を飲んでいることからも分かるように、全員が成人であることくらいだ。
冴えない30歳前後のスーツ姿の男性の対面には20代前半の軽薄そうな青年、左隣には彼と同年代の大人しそうなOLが座っている。
そして、若いOLの向かいに30代後半の眼鏡が似合うインテリな男性、その右隣に20歳だという女子大学生が同席していた。
実は彼らのほとんどが初対面のために場は静まり、その居酒屋の中で異様な空気を漂わせている。そんな彼らに共通するのは皆、吸血鬼の令嬢イリアの下級眷属という点だ。つまり、“チームイリア”である。
ただ、連帯感など一切なく静まり返った気まずい状況であり、見かねた冴えないサラリーマンこと、安田郁夫が口を開く。
「あのぉ~、黙っているのも何ですし、皆で自己紹介しませんか? あっ僕は安田と申します」
ある意味で勇者と言える彼に反応して皆の視線が集まり、暫時の沈黙が場を支配するが…この中では最年長のインテリ男性がそれに応じた。
「私は柏原です、今日は宜しくお願い致します」
口火を切った柏原に対し、女子大生と軽薄そうに見える青年が続く。
「安田さんは一度会ったから知ってるだろうけど、他の皆さんは初めてなので…… あたしは寺崎秋絵です」
「あ、俺は山之上です、よろしく!」
「…… 宮森聡子です」
最後に大人しそうなOLが自己紹介をした所で再び場に沈黙が降り、皆がどうしたものかと顔を見合わせる中で、吸血鬼の令嬢イリアが姿を見せた。
「皆、お待たせいたしました」
そう、彼らは彼女を待っていたのである。吸血鬼の眷族は自分の主に尽くす事で多幸感を得られる事に加え、主の言葉は無視できない性質を持つ。勿論、個人差はあるのだが…… 誤差の範囲内だ。
「あ、イリアちゃん、いらっしゃい! ここ、席空いてるよ!」
テンションが高い秋絵の呼び声に、イリアは少し嫌そうな顔をする。
前回、秋絵を眷族化した時に過剰なスキンシップを受けたため、警戒しているのだが…… 6人が座れるようにテーブルと椅子が用意されており、空席が秋絵の正面しかない以上、座るしかあるまい。
「イリア様、お疲れ様です」
「ヤスダ、人目がある場所では呼び捨てになさい」
軽い挨拶をしてくる郁夫に微笑みつつ、釘を刺してイリアが席に着くと注文を取りに店員が近寄ってきた。
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