魔王、蒸気式発電機を説明される
その背中を見送った後、自室に戻ってイリアの土産であるローズティーを啜る。
日頃はそんな洒落たお茶など選ばないので、ここは素直に彼女へ感謝を捧げて堪能しておく。
「ずずっ……、はぁ~、落ち着く。偶には一人の時間も必要だな」
ゆっくりと身体を伸ばしてリラックスしつつも、先程見ていたリーゼロッテからの報告書を思い出す。そこには要約すると“一応、蒸気式発電機ができたのじゃ! 視察に来ると良いぞ”という内容が書いてあった。
他にも、作動原理や工夫などがハイテンションに綴られていたが、どうせ見に行けば彼女に無理やり聞かされるのだから、今の時点で熟読する必要もない。
作製を頼んだ手前、視察に行かない訳にもいくまいと割り切って、お茶を飲み干した俺は部屋を後にしたのだった。
そうして最下層の一つ上、ダンジョン中央部の大きな吹き抜けの周りに建屋が並ぶ青銅のエルフ達の区画工房へ向かう。中でも青銅のエルフを率いるリーゼロッテが直接管理する工房を指して“中央工房”と呼んでいるが、実際は、吹き抜けの外環をなぞるように並んだ工房群の一つに過ぎない。
件の工房からは中央部の吹き抜けまでダクトが伸びており、黒い煙がもくもくと地上に向けて昇っていく。その大部分は各工房に導入された蒸気機関から出るものだ。
蒸気を動力に円盤を回して金属を削る工作機械や、ピストンによる加圧を利用した機械などが稼働していると報告があった事を思い出す。
ここ最近、地球由来の技術流入で活気づいている青銅のエルフ達の姿を眺めながら、中央工房に入っていくと…… 工房内で何やら図面を引いていたリーゼロッテと視線が合う。
「ようやく来たのじゃな、レオン!」
「報告書にあった蒸気式発電機を見せてもらいに来たぞ」
此方を見つけるなり、嬉しそうなリーゼロッテが駆け寄ってきて、俺の袖を掴んで奥に引っ張っていく。
「電気を作れと言う、お主の無茶振りを妾が叶えてやったのじゃッ、感謝せいっ!」
彼女に引っ張られていった先には、工房の煙突傍に設置されたやや小型の蒸気機関が設置されており、車輪部分には今までの異世界製の蒸気機関には無かったものがある。
「これは、ゴムか?」
「そうなのじゃ! そこに目を付けるとはさすが妾のレオンなのじゃあ~」
何やら聞いてはいけない部分だったようで、機嫌よくエルフ族特有の笹穂耳を上下にピコピコさせた彼女はまくし立てるように喋り出す。
「先日、ラーガットが樹液を取りに行ったじゃろう? その“らてっくす”に硫黄と炭素を加えた天然ゴムなのじゃ! このゴムベルトで、車輪の回転運動を“しゃふと”に伝えておる。これで軸先の“ねおじむ”磁石が回るのぅ」
リーゼロッテの指先を辿ると、蒸気機関から延びる芯棒の先端で大き目の磁石が回転しており、銅線をコイル状にぐるぐると巻き付けた鉄心にて左右を囲まれていた。
「あの磁石はどうした? 買った覚えは無いが……」
「追加で買ってもらった2台目の“がそりん”発電機を分解したのじゃが、まずかったかのぅ? 磁石は……、発電できる程の磁石は作れなかったのじゃ……」
唐突に彼女がガックリと膝を突き、四つん這いで凹む。
「笑うがいいレオン、発電機を潰して発電機を作る愚かな妾を…… でものぅ、折角、お主が頼ってくれたのじゃ、何とかしたいと思う気持ちも分かってほしいのじゃ……」
「あぁ、いつも感謝している。それに信頼もな」
「レ、レオ~ン、やっぱりお主は良い奴なのじゃ!!」
がばっと飛びついてくる彼女を反射的に受け止めておく。
「あと、残念な事にのぅ、“ぶれーかー”と電圧計も作れなかったのじゃ…… かろうじて、“とらんす”は何とかなったがのぅ。その内なんとかするのじゃ!!」
見れば、コイルから延びる銅線の先は変圧器に接続され、そこから電圧計、ブレーカーを経由して樹脂製のコンセント受け口で終端となっており、ノートPCの電源が3つ刺さっていた。
「なぁ、リゼ、余剰電力はどうなってるんだ? 電気が発生し過ぎると電圧が上がるだろう……」
「そうじゃの、そうなれば“ばーん”なのじゃ」
「…… 大丈夫なのか?」
「うむ! そこは蒸気機関の方を調整して、そこまで危険な量の電気を簡単には作れないようにしておる。それとクランクに仕掛けを作って、車輪を止める仕組みも作ってあるのじゃ!…… まぁ、暫くは様子を見ながら慎重に運用するかのぅ」
何気に科学の発展は危険と隣り合わせなのだと不意に実感してしまう。
「可能な限り、怪我人の出ない様に頼む」
「勿論なのじゃ、ゼッタイとは言い切れんがの」
若干の不安を含みつつ、これで惑星ルーナ初となる蒸気式発電機の試作型が産声を上げた事になるが…… どうやらリーゼロッテはまだ止まらないようで、物欲しげな視線を向けてきた。
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