魔王、再び"アレ"を持たされる!
「…… 以上がイリアから提出された報告書の内容ですわ、イチロー様」
「ありがとう、スカレ。お前達、吸血鬼が居てくれて助かった」
「いえ、全ては私達がより良い明日を生きるためです」
「あぁ、その通りだ」
報告によると、スカーレット麾下の吸血鬼イリアが地球の日本国内において自身が支配権を持つ下級眷族を数名確保したとある。
「…… 素晴らしい事だ」
以前に此処で錬成された金塊から創ったゴールドアクセサリを貴金属店に買い取ってもらった際、最も困ったのは本人確認だ。精神干渉の魔法で誤魔化したが、一般的な日本人の精神構造を持つ俺としては何やら心苦しいものがある。
「一応、この世界ルーナの事や詳しい事は今回の者達には教えておりませんので、万一があっても面倒事にはならない様にしております」
「本当に色々と助かる、さすがはスカレだな」
「いやですわ♪ 褒めても何も出ませんよ?」
スカーレットが頬に両手を当て、ふるふると小刻みに身体を揺らすのを眺めつつ、俺は手元の資料に視線を移して記載される数名の中から一人の男に着目した。
「では、この安田郁夫にマンションの賃貸契約を結んでもらおう。そうすれば、向こうでの拠点ができるし、通販により様々な物品の購入が可能になる」
「連帯保証人はどうなさいますか?」
「こっちの資料の寺崎秋絵とかどうだ?」
「テラサキですね、では手配いたしましょう」
何故、この安田郁夫を選んだかといえば資料に“人畜無害っぽいです”というイリアの特記事項が付いていた故だ。なお、寺崎秋絵には“愛され過ぎて困ります、同性なのに……”との特記事項がある、ここは突っ込むべきなのだろうか?
「う~、イチロー、そろそろあたしも地球に行きたい」
「まぁ、もう少し待ってくれ。今度、吉田家の牛丼でも買ってきてやるから」
「ぎゅうどん、何それ?」
「あれは…… 良いものですわ、ヴィレダ」
現状でこんなまったりした会話ができているのは、地下30階層の戦い以降、シュタルティア王国軍が地下20階層の防衛施設まで後退したお陰だ。
以後は地下25階層~地下23階層にて、小競り合いが行われている程度であり、結果として当面の危機は去ったわけである。
この機会に内政面での立て直しを図るため、ここ数日は青銅のエルフの中央工房からの報告書などを読み進めていた。
一応、今日も各部署から送られてきた文書に一通り目を通したので、暫時休憩を取りに奥の私室へ戻ろうとすると、謁見の間にラーガットが入ってくる。
その手には布で包まれて断定できないものの、恐らくは“アレ”が持たれていたので、強いデジャヴを感じてしまう。
「魔王様、私達の第四区画工房で打ち直してきました、制式日本刀“みすりる”に御座います。どうかお役立てください」
何やら予想通りのモノを恭しく差し出してきたが、一体いつの間に正規採用されたのだろう…… まぁ、くれると言うんだから貰っておくとするか。
「ありがとう、今度は大事に使わせてもらう」
俺が腰のベルトに通した剣帯へ鞘を通すのを見届け、ラーガットはとても満足そうな表情を浮かべて去っていった。
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