魔王、戦闘を終え帰還する!
「……え?」
「…………」
此方を一瞥したヴィレダは無言で蹴り飛ばした白い鎧の騎士の下へ歩いていき、絶命した騎士の腰元の小袋を漁り出す。
ただ、未だ戦いは終わっていないのでベルベアが周囲を警戒し、麾下の人狼兵達も集結して護りを固める。基本的に人狼族は序列を意識して生活を行う事から、自然とその動きに連携が取れていた。
そして暫時の後、漁っていた小袋からヴィレダが掌に収まる大きさの何かを取りだす。
「…… 見つけた」
彼女に近付いて確認するとそれは切り取られた人狼の耳だった。銀色の毛並みを見るに恐らくは天狼のものなのだろう。
「…… ギリアム卿は迎撃を担当しておりましたので、人間達にもよく知られています。その討伐を証明するために身体の一部を持っていたのでしょうね」
いつの間にか、スカーレットが傍に立っており、辺りを警戒する者達の中には結界を展開する吸血鬼達の姿が交じり出し、戦闘に伴う金属を打ちつけ合う音や叫びがほとんど消えていた。
指揮官が倒れた事と此方の攻め手が止まった事が合わさり、唐突な戦闘中断が起きたのに乗じて王国軍の残党は後退を始め、徐々に距離を開けて地下29階層への連結部へと逃れていく。
「ふむ、追撃という雰囲気でもないか……」
「イチロー、気にしなくていいよ、狩りの機会は逃すべきじゃない」
「………… (コク、コク)」
ふらりと立ち上がったヴィレダが次の階層に繋がる連結部を睨む。なお、此処から上の階層は簡素であるが迷宮的な構造を持っているので、慎重に進まなければならない。
「スカーレット、此処の魔導装置を掌握した後、ダロス達を連れて追ってきてくれ」
「分かりましたわ、イチロー様」
頷く彼女に遠見や転移を妨害する装置の処理を任せ、再び人狼兵を中心に隊列を組み直して追撃を行うも、地下29階層~21階層の侵入者を防ぐ簡易な迷宮構造が退却する王国軍兵に味方する。
最短ルート自体は当然把握しているが、それは向こうもマッピングしているだろうし、狭めの通路が見通しを悪くしていた。
「うおッ!」
今も通路の角を曲がると矢が飛んできて、俺が事前に張ってあった結界に弾かれて近くに落下する。
咄嗟に懐から拳銃ТТ-40を素早く取り出して発砲したが、その銃弾も例の“柔らかい結界”にやんわりと包まれて床に落ちてしまった。
「微妙に鬱陶しいな、おいッ!」
そんなこんなで、地下29階層に設置された魔導装置の付近にある大きな空間へ辿り着いた時には、王国軍の姿はもう既に無かった。
此処に支援部隊が物資を運んできていたのか、部屋には撤退時に置き捨てられた物資が多少残っている。恐らくは戦利品に目を眩ませて足止めする意図もあるのだろう。
(統率の取れていない野盗扱いか、馬鹿にされたものだ)
当然、今は無視して先に進み、手狭な通路での小競り合いもありながら、地下26階層まで確保したところで連戦による兵達の疲弊を考慮して後続を待つ。
合流後はダロス麾下の守備隊を地下25階層との連結部に残し、一連の戦いを終えて帰還の途に着いた。
なお、人狼達の希望で立ち寄った地下33階層の森林地帯で、ヴィレダの人狼小隊は同族達の盛大な歓待を受け、その日は滞在していく事になる。
代わりに合流した青銅のエルフの青年ラーガットは乳白色の樹液が入ったバケツを持って満足そうな笑顔を浮かべていたが、折れた試作型日本刀“みすりる”を見て悲しそうな表情に変わってしまう。
どうやら彼の所属はコレを鍛造した第四区画工房らしい…… ともあれ、奪われた階層の幾つかを奪還する事に成功し、暫しの安寧を得た俺たちは先を見据えて、地球での活動にも余力を割いていく。
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P.S.『緋眼のナイトブラッド ✠ 吸血鬼の姫様と始める異世界攻略 ~ Also sprach die Vampir Ritter』も連載しています。
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