お狐様、病院とやらを視察する
その交易に係る所要で場を辞した鬼姫と離れて暫く、狐娘のリウにせっつかれて魔族区画と市街地に於ける境界線付近まで足を運び、アマノ医科学研究所と此方の大陸共通語で書かれた鉄筋コンクリート造りの白い建物に至る。
建築資材こそ、現地で製造したコンクリートと鋼材だが、中に詰め込まれた医療用機材は地球製であり、藤堂商事が試薬大手のシ〇メックス社製品を中心に取り揃えたものだ。
主に感染症や血液の検査を行う機器が置かれた部屋では、リーゼロッテに選抜された薬学に長けている青肌エルフ娘の助手と年若い研修医、天野沙織が至極不機嫌な黒髪緋眼の吸血令嬢に平身低頭で懇願していた。
「イリア様、ちょっとでも良いんですけど、駄目ですか?」
「これも錬金… じゃなくて、科学発展の為なのです」
「何が悲しくて、私が献血など… 自我同一性と種の沽券に関わります。というか、もっと主を敬いなさい」
例によって保守主義的な吸血姫スカーレットに頼んでも断られるため、自身の親にあたる御令嬢から血液サンプルを貰おうとしているようだが、“採血される吸血鬼とは如何に” と思わなくもない。
上位種になればなるほど不老不死に近づき、無病息災となる免疫力の高さから、様々な抗原体を持っていると推察できても、吸血貴族らの自尊心も高いので血液入手は難しい。
「魔王様も何とか言ってください、実験が進みません」
「後にしろ、来客だ」
「おぉ~、孤人族の方は珍しいのです。是非、検体の唾液を… ふぐッ、痛い、痛い~、耳を引っ張るのは駄目、絶対!!」
ずずいとリウに摺り寄ってきた青肌エルフ娘の笹穂耳を掴み上げながら、最近は勤務先の病院を辞めて、この惑星に定住している沙織へ胡乱な視線を投げた。
「仕事に熱心なのは構わないが、こいつらは知的探求心という欲望の赴く侭に生きているからな、余り毒され過ぎるなよ?」
「うぅ、言い返せない。気を付けます、はい」
多少の自覚はあるのか、スカーレットのドラクロア家とリースティア家が共同出資している研究所に引き籠り、すっかりと青白い肌の吸血種らしくなっている現状に釘を刺した上で、聡子より預かった “偶には戻って来なさい” という言葉も伝えてやる。
さらりと述べているが、こっちでは軽々に使えないスマホを手渡され、ご両親や友人達のメッセージに代返させられている内に食事の約束をしてしまったらしい。
「相変わらず押しに弱いわね、何やってんのよ、あの子……」
億劫そうに頭を掻き、白衣姿の研修医はがっくりと肩を落とした。
執筆の為に医療機器関連を調べると、“医療関係者ですか?”と聞かれて追い返されるWebページが多いのです。中々に難しいですね(;'∀')




