鬼姫、旧知の狐を連れてくる!
紙や印刷技術は古代の建築物同様、文明の基準を示すバロメーターという事で、芸術の秋が深まるまでの数ヶ月ほどノースグランツ領で普及を推し進めた訳だが……
ふらりと不死王領域の王都アウラにある星の使徒らの総本山より、噂を聞きつけた高位司祭の第四使徒 “星彩のリウ” が魔王公邸に来訪する。
交友のある鬼姫へ使い魔の管狐を送り、接触してきた妖狐族の御令嬢は応接室のソファーに座ってテラ大陸産の日本茶を啜りながら、可愛らしいケモ耳を微動させて頻りに頷いていた。
「これは中原を渡る商人達が運んでくる御茶と似ていますけど、中々に趣が深いものですね。市井の品でしたら、同胞達に買って帰りたいのですけど……」
「残念ですが、希少な嗜好品なので取り扱っている店舗は無いかと」
知己の言葉を否定したミツキが小首など傾げ、俺に伺うような流し目を向ける。
暗に “些細なことでも恩を売っておけ” と言われているようなので、彼女の顔を立てるのも兼ねて、その意図を受け入れた。
「まだ以前に買い付けたものが結構残っている、手土産に包ませて貰おう」
「ふふっ、気を遣わせてしまったみたいで申し訳ありません、魔王殿♪」
人当たりの良さと優れた容姿から察するに、貢がれるのは慣れたもののようで… 自然体で厚意を受け入れつつも、態々他国にまで赴いた要件を告げてくる。
直截な物言いは避け、腹の探り合いも交えた三人での会話を要約すると、“布教用の星典を量産したいので、パルプ製造に使う化成薬品の一式を卸して欲しい” との内容だった。
「これも、この惑星に棲む全ての子らのためです」
楚々とした聖女のような態度は微妙に訝しいが…“星の使徒” は地球のフリーメーソンと同じく友愛団体であり、信徒か否かに拘わらず “調和と人格の向上を以って、善き人々をより良くする” 事が至上命題なので、現状を鑑みれば協力するのも吝かではない。
というか、領主のイルゼ嬢が第六使徒 “星辰” の二つ名を拝命している事もあって、他領からの移住者や改宗者で領内に於ける信徒が増加の一途を辿りつつあるため、無碍な扱いは下策となる可能性もある。
「分かった、此方で精製した苛性ソーダ、硫化ナトリウム、次亜塩素酸カルシウムを交易品に乗せよう。そちらに出入りさせているディルド商会を使ってくれ」
「会頭のマルコ殿とは面識があります。先んじて立ち寄ったミザリア領で活版印刷機を拝見させて頂き、お土産に万年筆も一本渡されましたから」
にっこり微笑んだ狐娘のリウと、綻ばせた口元を鉄扇で隠した鬼姫の姿を見る限り、二人とリディア嬢あたりで粗方の商談は纏めていたのだろう。
「… で、お前は仲介料を幾ら貰ったんだ?」
「野暮なことは聞かないでください、我が君」
顔の半分を隠したまま瞳を細めてほくそ笑む姿に思わず溜息するものの、不死王領域と繋がりを深める事は中長期的な方策の一環なので、仔細は外渉担当の彼女に任せるという事で話が付いた。
フリーメーソンって、もはや誰でも知っている秘密結社ですよね~
これ如何に(≧▽≦)




