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試作型日本刀、あっさりと折れる

その王国軍の中心部にて、聖女と呼ばれる神術師のミリアは混乱の最中にあった。彼女の概念装は結界魔法を練習していた時、偶然に獲得した“緩衝”だ。これは発動中、彼女自身や展開する結界に触れたモノの威力を極度に低減させる能力である。


これを用いて不破の結界を張ることができたため、彼女は気が付けば聖女の名を冠していた。教会の信徒としては嬉しい限りではあるが、そのせいで今回の北部森林地帯のダンジョン探索に駆り出されたのである。


「絶対に壊れないって訳じゃないけれど…… 初めてだわ」


先刻、巨大な火球が飛んでくるのが見えたので、事前詠唱していた結界魔法に手を加え、補強して攻撃を受け止めた。そこまではいいのだが…… その直後、火球の爆発に耐え切れず、結界が吹き飛んで死傷者が出てしまう。


「ミリア殿、此処からでは矢も十分な威力を持たせられない、このままではじわじわと被害が広がるだけだ、さらに前進する! 貴女は攻撃魔法の対処を頼む」


王国軍本隊の指揮を執る白い鎧の聖騎士ラトスが少し前の位置から叫んだのに対して、ミリアが慌てて声を張り上げる。


「ま、待ってくださいッ、ラトス殿! さっき斥候役の冒険者が言っていた奇妙な武器の件もあります、慎重にされては如何でしょう?」


「…… だが、数では少し此方が勝る。慎重に構えたところで向こうは攻めてくるぞ! 折角、犠牲を出して獲得した階層をむざむざ奪われる訳にもいかない。相手の事を知るためにも一戦を交える!」


聖騎士の指示により、ダンジョン探索のために出された部隊は喊声と共に突撃し始めた。


それを迎え撃つのは最下層からヴィレダが率いる二つの人狼小隊となる。先の戦いで十数名の同胞を失った彼らの戦意は高い。


低い唸り声を漏らす人狼達は左右から王国軍本隊の側面を突こうと鉱山区画の平地を疾走する。王国軍の弓兵達が射撃を行うも、速度に乗った人狼へ矢を当てる事は非常に困難であり、その意識が標的に吸い寄せられていく。


「ッ、今です! 突貫しますわ!!」


王国軍弓兵が矢を斉射した直後を狙って、木盾を構えていたコボルト隊の背後から吸血鬼達が弾丸の如く低空飛行で飛び出した。それに連携する形でコボルト隊も前進し始めた状況で、近接戦闘の位置にまで達した人狼達が吶喊を仕掛ける。


「行くよ、皆の仇を取るんだッ!」


攻撃可能な距離まで接近した彼らはヴィレダを中心にした突撃陣形を組んで、敵の弓兵隊に向けて銃撃を行う。連続した発砲音の後には悲鳴が上がり、王国軍の右側面が崩れていった。


一方で、正面から飛来する吸血鬼に対して盾を構えていた前列の兵士達も、近距離からの銃撃に耐える事が出来ない。


「「ぐはッ!」」

「「うわぁああ!!」」


「ちッ、迂闊だったか! 弓兵後退、歩兵は前に出ろッ、このまま下がるぞ! 聖女殿は結界を頼むッ」


「用意はできています、歪曲結界!」


王国軍の正面に光球が生じて弾け、彼らを覆う様に虹色の結界が歪曲して広がっていく。本来、広範囲を護る結界の強度は面積に比例して低減するが、この歪曲結界にはミリアの“緩衝”の概念が付与されいるため、再度正面から放たれた弾丸を柔らかく受け止めた。


「やはり、このAZ-47の火力では突破できませんか」

「その代わり、此方も攻撃されることはありません」


思わず零れた主の呟きに傍へ侍る老執事が答える間にも、王国軍は陣形を立て直しながら後退していく。


「ふむ、厄介な相手は早めに潰しておかないとなっ!」


左側から攻め上がっていた人狼小隊へ紛れた俺は展開される結界に手を翳す。


「悉くを貫け、魔槍よ!!」


黒い魔力光を放つ無数の槍が飛翔し、結界の一部に纏めて突き刺さり、やがてそれを破壊した。遮るモノが無くなった途端に、周囲の人狼達が牙を剥いて敵歩兵に近接格闘を仕掛け、すぐに混戦となる。


その中で目立つ白い鎧の騎士を見つけた俺は口端を吊り上げ、出陣前に渡された日本刀を手にして切り掛かった。


「その首、貰い受けるッ!」

「ぐッ、くそ、魔族め!」


悪態を吐いた騎士は腕固定の小楯で俺の攻撃を弾き、そのまま長剣で切り掛かってくる。その刃に魔力光が宿るのを確認したため、反射的に回避を選択して飛び退き、再び切り返すがそれも相手の長剣で受け止められてしまう。


(まぁ、確認のためにわざと受けやすい斬撃を繰り出した訳だがな)


刃が触れ合った際、試作型日本刀“みすりる”は接触した部分からスッパリと折れてしまった。


「ふむ、やはり概念装か」


恐らく、“切断”なりの概念を長剣に付与しているのだろう。


「はッ、それを見抜いたところで俺に切れないものなど、ッぐはッあ!?」

「何だとッ!?」


どや顔で何かを言おうとした騎士は全てを語る事無く、怒りの形相をしたヴィレダに頭を蹴り飛ばされて地面を転がっていく。その首はあり得ない方向に曲がっていた……

面白いと思っていただけたなら幸いです!

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[一言] 結界魔法 これは扱いやすいです 有毒な空気が勝ちます
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