不良令嬢、今世は知性派です
「やはり木の匂いは良い」
「ですです♪」
「何となく、遠吠えしたくなるような……」
都会暮らし? の人狼達とエルミアが森林棲種族らしく、疾うの昔に開墾され切った中核都市エベルの近郊だと身近に感じ難い、ウッドチップの発する濃い樹木の香りにフサフサの尻尾や長い笹穂耳を微動させる。
がらがらと機嫌よく台車を押し進める魔族らの背後では、其々に有力な領主貴族の身内である子女が顔を見合わせて微苦笑していた。
「時にレドリック殿は二人の兄君をお持ちですけど、ミザリア領… というよりも、ベイグラッド家に残るおつもりでしょうか?」
まだ知己となって日が浅いことや、何かの折に利用できそうな立場の少年であるため猫を被ったまま、可愛らしく小首を傾げたミルダが問い掛ける。
古今東西、貴族の三男坊など予備の予備であれども某辺境伯のご家庭は事情が違い、爵位継承すると思われていた嫡男のヴェルガはノースグランツ領の乗っ取りに失敗して囚われ、和睦後に解放されてからは “一兵卒からやり直す” と公言していた。
なお、領民達の信頼は聡明な次男坊のクリストファに向いているが、有事の際に先頭で泥を被るのを嫌い、長兄の補佐役に収まろうと画策していたりする。
「ん~、僕としては自由放免の身が理想なので、その意味では実家を離れた方が良いのかもしれませんね」
何処か逡巡しながらの返答を受け、様々な人と物が集まるエルゼリス領の魅力を適切に伝えて誘導すれば、将来有望な技術者を引き込める可能性は無きにしも非ずと、侯爵家の御令嬢は密かにほくそ笑んだ。
そんな遣り取りをしている間にも一同は化学工場内に踏み入っており、原材料が届くのを待っていた青肌エルフの親玉、瀟洒な黒ドレスの上から白衣を羽織ったリーゼロッテの下に辿り着く。
「どうやら、上手く加工できたようじゃの、こっちの準備も上々なのじゃ♪」
「私とレド君の木材粉砕機を以ってすれば容易いのですよぅ」
楽しげに種族的な象徴でもある構造解析の魔眼を輝かせ、何故かハイタッチを交わす青銅のエルフ二人と対照的に、色々な素材や薬品の匂いに人狼達が眉を顰めた。
嗅覚に優れている彼らは何とも言えない表情で指揮系統は違えど、群長の銀狼娘と同格かつ魔王の寵愛を受ける才媛に失礼が無いよう、慇懃な態度で話を切り出す。
「では、我々は御暇させて頂きます」
「もう一便、蒸気トラックが来ますので……」
「うむ、ご苦労じゃった。ヴィレダやベルベアにも宜しく伝えてくれ」
「随分と助かったのです、ありがとう御座います」
にっこりとした笑顔で送り出され、軽く会釈した人狼族の面々は踵を返すと元々作業していた工場へ戻り、前世の反省で知性派に育った不良令嬢を含む学問の徒だけが残された。
遅筆ながらも、何とか更新できました(੭ु ›ω‹)੭ु




