不良令嬢、時の流れを感じる
「東京スカイタワー? なんて建築物を見た瞬間からさ、嫌な予感は凄かったけど、あたしが死んでいる間も普通に地球は廻ってたんだね、一郎さん」
丁度お盆の時期という事で、小山家先祖代々の墓がある首都圏の墓地まで向かう道すがら、まるで浦島太郎のように枯れ果てた夏服姿の少女が呟く。
様々な条件と引き換えに前世の家族を探して欲しいと頼まれ、急かされるままに地球への転移門を開いて、ミルダを藤堂氏に引き合わせたまでは良かったが……
そこで初めて、小山優花(享年16歳)の生年月日が1972年だと、本人の口より語られたのだ。
「流石に “平成” が丸々抜けていると、厳しそうだ」
「そりゃあそうでしょう、死んだ翌年に元号が変わってベルリンの壁が崩壊。今じゃ、欧州連合の舵取りをしているドイツの首相が共産圏出身って、何かの冗談?」
思慮深い藤堂氏の勧めで傾注すべき平成史をレクチャーされた結果、自身の転生よりも衝撃を受けた元ヤンの御令嬢は憤懣やるかたない態度で独り言ちる。
「もはやこっちの方が別世界じゃない……」
「墓参りが終わったら、エルゼリス領に還るか?」
「ん、形は違えど悲願の達成と… 観光もしたらね。あっ、見えてきた」
少しだけ声を弾ませながら指さした先には、多くの地元民が利用しているであろう、比較的に大きな霊園の入口があった。
墓地とは似合わない蜂蜜色の髪を揺らし、やや歩みを速めた異邦の少女に続いて、綺麗に手入れの施された園内へ踏み入って墓石がある区画まで足を運ぶ。
「あたしはがさつな性格だから、細かい事に執着しないんだけど… 繁華街で友達と一緒に刺されたのは母さんと喧嘩した日の夜でさ、ちゃんと謝りたかったんだよ」
自身が悪かったのにも拘わらず、かなり酷い言葉を叩き付けたらしく、二度目の人生に於いて幾分か理知的になったミルダが気まずそうに髪を掻き揚げた。
「……そうか、生前の内にできなかったのは残念だな」
「まぁ、生きてても、今更どの面下げて会いに行けばいいか悩んでたし、親父の方は元気に実家の店番してたからいいや」
ざっくり言い切って立ち止まり、母親の遺骨が納められた場所を一度眺めてから、持参した道具で然ほど汚れていない墓石の掃除に取り掛かる。
「俺も少し手伝わせて貰おう」
「いや、あたしが全部やるよ」
短い言葉で断りを入れつつ墓石を磨き、黙々と雑草の処理なども済ませた少女は満足そうに頷き、素知らぬ顔で老齢の親父さんと世間話を交えて購入した夏秋菊の花束を添えた。
「随分と遅くなって御免なさい、あたしが浅はかだったのは今なら理解できるよ。沢山、心配してくれてたのにね…… ありがとう、母さん」
暫しの黙祷に付き合い、此方も瞑目して故人の冥福を祈っていると、不意に快活な声が耳へ飛び込んでくる。
「さてと、最大の目的は果たしたッ、次はラーメンでも食べに行こう!!」
「…… もう良いのか?」
「あんまり、湿っぽいのは好きじゃないからさ、ちょい付き合ってよ」
朗らかに微笑むミルダの瞳は少し潤んでいるものの、指摘するのは野暮なので大人しく手を引かれ、駅前付近にあったラーメン三郎まで拉致されていく。
そこで自家製チャーシューや、茹でたキャベツとモヤシが売りの逸品を食べたり、様々な銘柄のタバコを買おうとして昔はなかった年齢確認で阻まれるのを傍観したり、雑多な時間を楽しんでから帰還した。
なお、この時に全巻購入して帰った “特攻〇拓” が切っ掛けとなり、元ヤンの御令嬢とエルミアが意気投合して、蒸気機関式バイク “鉄郎 Mk-Ⅱオフロード仕様” がエルゼリス領に贈呈された事も付け加えておく。
遅筆ですけど、ぼちぼちと頑張ってます。
読んでくれている皆様に感謝♪ヾ(。>﹏<。)ノ゛




