不良令嬢、被っていた猫を放り投げる
望む質問を引き出せたとばかりに二つ返事で頷き、侯爵家の令嬢は言葉を紡ごうとするも、遮るかのように執務室の扉が荒っぽくノックされる。
「御嬢、給仕が香草茶を運んで来ました」
「通してやっても、別に構いませんかね?」
「間の悪い… えぇ、お願いします」
そそくさと席を外した男爵に自ら頼んでいた経緯もあり、一瞬だけ剥がれた猫を被り直したミルダの許可に従って、女性の官吏二人が入室してきた。
行政庁への来訪者に対する世話も役務に含まれているらしく、若手の官吏達は手際よく片手で支えた銀板から白磁のティーカップや焼き菓子を卓上に並べて、やや大きめのポットより紅い液体を注ぐ。
「これって… もしかしなくても、紅茶?」
「はい、そこのイチロウ様に先日頂いた献上品の残りです」
「あぁ、イリアの選んでくれた物だ、銘柄は……」
「青山の専門店TeaProudで購入したセイロン茶の一種ディンブラです」
確か仕事で出掛けた折、明治神宮の外苑付近に洒落た店舗があったと思い出している内に給仕役達は下がり、感慨深げな雰囲気の御令嬢が上質な紅茶を一口啜った。
そのまま無言で幾度か口内に含み、少しの沈黙など挟んで卓上に白磁の器を置く。
「領内にも草原の諸国を経由して、茶葉を取り寄せることはできるのですけど、その過程で紅くならずに黒くなります。やはり味は違いますね」
「発酵過程が異なるんだろう、再現は試さなかったのか?」
「残念ながら生産国が余りに遠いので現実的ではありません」
軽く左右に頭を振り、瞳の色と似通った蜂蜜色の髪を僅かに揺らしてから、そっちはどうなんだと視線を向けてくる。
「ノースグランツの寒冷的な気候で育つ樹木は限定的だ」
「ふふっ、意外と役に立ちませんよね、前世の知識とか」
ひと一人で可能なことは高が知れており、旧知のリーゼロッテ率いる青銅のエルフ族がいなければ、地球と因果関係がある故に近しい環境下でも一部技術の導入は頓挫した公算が高い。
縁の深い “のじゃロリ” … 青肌エルフ娘が脳裏を過り、俄かに俺の思考も逸脱し掛けたものの、我関せず紅茶と焼き菓子を嗜んでいたイリアが会話に割り込む。
「徐々に本題から離れていませんか、お二人とも?」
「全く以って適切な指摘だな」
「では、改めまして、あたしは小山 優花だったものです。十六年もこっちにいると過去の記憶なんてさ、映画のフィルム見てるような現実味のないモノだけどね」
徐に指先で窮屈なドレスの胸元を大きく寛げ、ざっくばらんな態度を露にした領主の末娘がにっこりと微笑んだ。
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スランプ気味ですが、ボチボチと筆を走らせてます。
いつも読んでくれる皆様に感謝を!!(୨୧•͈ᴗ•͈)◞ᵗʱᵃᵑᵏઽ*♪




