不良令嬢、出自を問われる
小都市中心にある広場の北側、やや敷地面積は手狭でも三階建ての庁舎に至り、官吏に先導されるまま応接室まで足を運ぶと、二名の護衛を従えた侯爵家の令嬢が椅子より立ち上がって会釈してくる。
「“星の使徒” の皆様、ご足労頂き、ありがとう御座います。それとヴェルナー卿にも、お手数を掛けました」
「いえ、主家筋のご用命なら苦になりません」
「ふふっ、こんな小娘に気を遣わなくて良いですよ?」
悪戯っぽく微笑んだミディアムヘアが特徴的な少女はミルダ・シャウムと名乗り、簡素な挨拶が済めば対面の席を俺とイリアに勧めてきた。
「では、お言葉に甘えて……」
「失礼致しますね」
衒いなく応えた此方が着座するのに合わせて、行政官の男爵も寄り親の末娘に断わりを入れ、その隣に腰を下ろそうとするも… やんわりと拒否されてしまう。
「少し折り入った話がありますので、席を外してくださいませんか? 厄介ごとに巻き込まれたいなら別ですけど」
「分かりました。御茶の用意は必要ですか?」
「えぇ、お願いします」
恭しく頭を下げた男爵は道中にて、領主の末娘が奇抜な人物だと言及していた事もあり、少々ほっとした様子で自身の執務室を辞していく。
その後追いをするように、年若い侯爵令嬢の目配せを受けた屈強な護衛達が続いて廊下側へ出た。軽く意識を集中させて、気配を探ると扉の前に陣取っているようだ。
「ふむ、人払いが必要な話という訳だ」
「理解が早くて助かります、イチロウ様。南部地域での疫病対策は第六使徒 “星振” を冠するイルゼ嬢が関与していると聞きました。真偽のほどを窺っても?」
疑惑含みの視線を受け、隣席のイリアから警戒感が伝わる中で、少々思案しつつも蜂蜜色の瞳を見つめ返す。
此方の関与が末娘を経由して、エルゼリス領主の既知となるのは歓迎すべき事なので頷けば、ずずいとミルダが身を乗り出してきた。
「やはり、お二人はノースグランツの御領主と接点がある訳ですね!!」
「まぁ、日々の愚痴を聞く程度にな……」
「それが何か?」
微妙に醒めた態度のイリアに指摘され、こほんと小さく咳払いした侯爵家の令嬢は居住まいを糺し、数秒の逡巡を挟んで期待と不安が綯い交ぜになった表情で問い掛けてくる。
「不躾ながら、懐かしい響きの名を使う一郎様に教えて貰いたいのです。イルゼ嬢は… テラ大陸への連絡手段を保持しているのでしょうか?」
「いや、持ち合わせていないが… 時に日本の首都は?」
「勿論、東京です」
さも当然の如く、この惑星に棲まう者達が知らない常識を示して、次の言葉を待つ少女を看過する訳にもいかないため、ほぼ確信的な予測に基づいて “同郷の類か” と尋ねた。
スランプ気味ですが、ボチボチと筆を走らせてます。
いつも読んでくれる皆様に感謝を!!
(୨୧•͈ᴗ•͈)◞ᵗʱᵃᵑᵏઽ*♪




