魔王、概念装を思い出す
(くッ、無駄に毛並みが良いな……)
ともあれ、此処に留まっていても話が進まないので、退路を護る彼らを残して鉱山区画を進むと、程なく平地に陣取るシュタルティア王国軍の兵士100名ほどが見えてきた。
前列に盾兵、その後ろに歩兵、最後に弓兵というオーソドックスな陣形を取っている。
「ふむ、広範囲魔法で吹き飛ばせれば楽なのだが……」
仮にも天狼のギリアムを討った連中だから一筋縄ではいかないだろう。現状の距離だと相手の弓矢が十分な殺傷力を持たないとしても警戒は必要だ。
「試してみるか…… 彼方の地に棲まう生ける焔よ、煉獄の炎を此処に、全てを業火に包めアンリミテッド・ファイアバレット」
頭上に掲げた掌に巨大な火球を生じさせて前方の王国軍に撃ち放つ、無防備だと半壊する程度の威力は持たせてあるが……。
こちらの魔法に対応して虹色のカーテンが王国軍の前に展開され、放たれた火球をやんわりと包み込む。その瞬間に火球が爆ぜ、虹のカーテンが爆散して付近の盾兵数名を吹き飛ばした。
「ふむ、特級魔法をあの程度の損害で防ぐのか……」
「叔父様、あれは概念装の類です!」
スカーレットの言う通り、こんなところまで攻めてきた以上、概念装を持っている人間がいてもおかしくない。
概念装は発現条件不明の後天的能力で人と魔族のどちらにも発現する。世界の法則を捻じ曲げて不条理を押し通す独自の概念を身に纏う能力だが、本当にどうしようも無いものから、洒落にならないものまで格差は大きい。
300年前の勇者は“克己”を持っていた。自分より強い者と戦闘すれば、分刻みで“己の限界を超えていく”という反則的なものだった。
実はこのダンジョンも俺の概念装である“造成”を活用して創られている。これは自然物に干渉する能力故に、樹木を捻じ曲げたり、地下空間を造ったりできる事に加えて水源や鉱脈の探知も可能だ。
なお、発動自体にかなりの魔力を必要とするため、厳密に言えば個人単位で固有している強力な魔法なのかもしれない。
「中々、厄介な類の概念を纏っているが…… どうやら潰せない事もない。幸い“絶対防御”とかではないようだな」
「でも、このAZ—47では突破できそうにありませんわ」
少し困り顔となるスカーレットに口端を吊り上げ、不敵な笑みを返す。
「連続かつ広範囲にあの虹の結界を展開できるわけでもないだろう、小隊単位で散開して攻めるッ、向こうの弓兵には注意しろ!」
「分かった、征くよッ、ベルベア!」
「……!(コクッ)」
威勢よく応えたヴィレダ率いる人狼小隊とスカーレットの吸血鬼小隊、コボルト小隊、守備隊の人狼小隊が一斉に散開する中、俺は守備隊から選出した人狼小隊と行動を共にする。
対する王国軍は先程の一撃を受け、防戦に徹しても被害が出ると悟ったためか、徐々に距離を詰めてきていた。
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