魔王、星の使徒達に書簡を送らせる
様々な経緯を辿って小都市の庁舎へ届けられた件の書状は…… 市政を司るヴェルナー・ブラウンという中年男爵を大いに悩ませていた。
(どうする? 星の使徒達が現実的な成果を出している以上、無下には扱えないし、下手をすれば自分の首が締まり兼ねない)
今や彼らの運営する聖堂 “天文台” には多くの市民が日々詰めかけ、"麦角病”と名付けられた疫病の緩和治療を受けている。
性質の悪いことに病原と噂される穀物の扱いは行政が厳密な規定を定め、流通管理している最重要物資なので、もし事実なら市側の責任問題となってしまう。
「…… 最悪だ、爵位の降格もあり得るぞ」
そうなれば最下位の貴族は平民落ちするしかなく、妻子ともに路頭に迷う訳で、身の振り方を考えなければならない。
本来は取り急ぎ天文台へ赴き、星読みの司祭に事の顛末を糺すべきなのだが…… 執務机に両肘を尽き、頭を抱えている行政官に変わって、側近の官吏が言葉を紡ぐ。
「テラ大陸由来と宣う薬や知識、炊き出しに使われている流通経路が曖昧な小麦など、どう考えても星の使徒らの背後にいるのはノースグランツの領主令嬢でしょうね」
「しかも、更なる後方には魔族勢と人外の王が控えている。これは善意の名を借りた侵略と考えた方が良い」
戦争なら相手方の悪逆非道を喧伝して、民草の恐怖心を煽って支持や団結など促せるものの、医療支援を活かした人心の篭絡には対処し難い。
頭を悩ませたヴェルナーは深く溜息して、もう一つの書状を手に取った。
紙面の末尾にはエルゼリス領内で最大規模を誇る白夜教の刻印が押されており、内容は星の使徒達が実践している行為への疑義だ。
ざっくりと意訳すると "こんなに都合よく疫病の対処方法が世に出てくる筈は無い、寧ろ蔓延させた犯人は連中ではないのか?” との主張が綴られている。
「住民の反感を買いたく無いとは謂え、此方に言わせず、自分達で言えよ」
「同感です、無視するのが賢明かと……」
「少なくとも、ロイス様の返事が来るまではな」
現在進行中の事態を察知した時点で、寄り親の侯爵には伝書鳩を送っており、逆算するともう半刻くらいすれば指示書の類が届くだろう。
そんな短時間で終わる仕事など持ち合わせてないため、疲れた表情の男爵は侍従の娘に香草茶と茶菓子の用意をさせ、辛い現実から目を逸らす事にした。
だが、戻ってきた彼女はティーセットではなく紐で筒状に縛り、侯爵家の封蝋など施された小さい羊皮紙を持参して、無情にも彼を職務へ引き戻す。
少しの間、執務室にくぐもった中年の呻き声が響いた。
相変わらずスランプ気味ですが……
皆様の応援で頑張れています(୨୧•͈ᴗ•͈)◞ᵗʱᵃᵑᵏઽ*
P.S.世間ではコロナが流行ってますので… 皆様、体調には気をつけてくださいね。




