魔王、階層連結部を確保する
高速飛翔しながらスカーレットはそろそろ手に馴染んできた自動小銃AZ-47を構え直し、銃口を前方下に展開するシュタルティア王国軍のクロスボウ兵を中心とした小隊に向けて号令を掛ける。
「総員、射撃と共に駆け抜けますッ、撃て!」
タァアンという乾いた銃声が幾重にも響き、上空より放たれた銃弾がクロスボウ隊の側面を食い散らかした。
「うわッ!」
「ぐぅッ」
「うぇ、な何だ、痛ぇッ!!」
縦列に並ぶクロスボウ隊の右側面へ配された数名が倒れて兵達が動揺する中、近くまで接近していた吸血鬼達が、さらに上空から隊列の中心部に鉛玉をばら撒いて彼らの頭上を飛び越えていく。
「な、なんだッ、何が起きている!」
ほぼ壊滅したクロスボウ隊を前に小隊長が叫ぶが、それで状況が好転する訳でもなく、意識が逸れてただ隙を晒す結果になった。
「ッ、好機だ、あたしに続け!」
吸血鬼達の銃撃に連携して階下のミノタウロスがしゃがみ込み、その背を踏み越えてヴィレダを先頭に人狼兵が突撃を敢行する。
勿論、彼らの手にもAZ-47が握られており、階段前を封鎖しようと動いた王国軍の盾兵数名を目掛け、無数の銃撃が浴びせられる。
「ぐふッ!」
「がぁッ!」
至近距離からの銃弾は彼らの盾や鎧をあっさりと貫通して、致命傷を与えて斃れさせた。
「邪魔だよッ!」
ヴィレダは階段側に向かって倒れ込む盾兵を殴り飛ばし、素早く階段を上りきって前方へと跳躍する。階下から上階を見上げた場合、前方以外は死角になり、何処に敵がいるか分からないため、彼女は上空に飛び出すという行動を選択した。
さらに空中で身体を回転させ、背後を振り向きながら状況を確認した上で、彼女が王国兵の指揮官らしい男に向けて銃の引き金を引き、乾いた炸裂音が2回鳴る。
「な、な…んなんだ、一体…… ゲホッ」
銃弾を無防備に胸元へ受けた彼は混乱のままに息を引き取る事になった。
残された盾兵十数名が混乱する最中、ベルベアを先頭に後続の人狼兵達が階段を飛び出して散開し、階段周辺に残存する彼らへと銃撃を行う。
暫時の後、階段を防衛していた王国軍の小隊は壊滅する事になり、俺は誰にも邪魔される事なく上階への階段をゆっくり昇り、地下30階層の鉱山区画に足を踏み入れる。
上空から此方を見つけたスカーレットが羽ばたきの音を鳴らして傍に舞い降り、残敵掃討を終えたヴィレダもそれに気づいて駆け寄ってきた。
「素晴らしいですわね、このAZ-47は……」
「ん~、あたしは直接殴るほうが好きかも?」
首尾よく事が進んだ故か、上機嫌な二人と言葉を交わしているうちに後続の守備部隊が追い付き、階層を繋ぐ階段周辺を確保する。
「王、退路の確保は任せて頂きます、万一の事もありますゆえ……」
守備部隊長を務める黒毛のミノタウロスがのしのしと歩み寄り、恭しく述べてきた言葉に頷きを返す。
「…… そう言えば、名前を聞いてなかったな」
「ダロスに御座います」
「よろしく頼む、ダロス」
「はっ」
頭を下げた黒毛の猛牛が率いるミノタウロス族は護りを得意とする種族であり、敏捷性が無いために攻城戦などを除き攻め手には向かないが、膂力を活かして重武装ができる。
彼らの族長であるダロスに対して、俺の頭の中には“黒毛和牛”という失礼な単語が浮かんでしまう。
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