魔王、無駄飯喰らいと再会する
そんな中で一際目立つのが幼体でも相応の大きさがある鷲獅子を胡坐の上に乗せ、至極満悦な様子で柔らかそうな毛並みをもふり、だらしなく表情を緩ませた赤毛の大男である。
ノースグランツ領の簒奪に失敗して地下ダンジョンの牢獄へ囚われ、余り太陽の光を浴びていなかったが故、若干色白になった気もするが…… 本人曰く、“やる事が無さすぎて一日の大半を筋トレに費やした” と宣う、筋骨隆々なベイグラッド家の長兄ウェルガだ。
「むぅ、そこにいるのは魔王殿ではないかッ、久しいな!!」
良く通る大声で叫び、片手を掲げてきたので此方も振り返しておく。どうやら、膝の上に乗った仔グリフォンを除ける意思はないらしく、奴は再び毛繕いという名の作業に没頭していく。
「…… あれは放置で良いのか?」
「えぇ、ダンベルなどを牢獄に差し入れてくれた黒毛の……」
少し思い出すような仕草でクリストファとは面識の薄い黒毛和牛、もとい精悍な牛人の姿が脳裏に浮かんだ。
確か、牢獄区画はミノタウロス族の管轄であるため、虜囚だったウェルガと既知でもおかしくない。
「ダロスのことか?」
「はい、彼の御仁に諭されたようで、只の兵卒になった経験など無いにも拘わらず、一兵卒からやり直すなどと言い出したのです」
苦笑いを浮かべた次男坊から察するに父親のゲオルグも領主の立場や体裁があり、嫡子に領兵の真似事などさせる訳にもいかず、相当に頭を抱えたのだろうと予測できる。
ミザリア領の兵達にしても気兼ねは避けられないし、命令を下す騎士らも扱いに困るのは必至だ。
「その心意気は別として、非常に迷惑千万だな」
「でしょう? 何とか説得して、新設する鷲獅子飛兵隊の配属になって貰いました。精鋭部隊の指揮官ならば親父の立つ瀬もありますから」
色々と身内や周囲に気を遣われている辺り、まだまだ未熟だと思うものの本人は幸せそうなので、余計な口は挟まずに赤毛の大男から視線を逸らす。
それで区切りが付いたと見たのか、傍に控えていたミツキが口元を鉄扇で隠しながら、静かな声音で言葉を紡ぐ。
「牧場の視察も良いですけど、それ以外も御忘れなきよう」
「エルゼリス領との通商に係る件か?」
現在、ノースグランツ及びミザリア領は魔族廃絶主義を掲げる白夜教の嫌がらせで経済封鎖されており、不死王領域との取引があると謂えども品目に依っては物価の乱高下が激しい。
窒素系肥料を使用した近代的な農業が軌道に乗っている事に加え、最悪は外海に繋がる港湾もあるので喰うに困らないが、長期的な視点だと解決すべき優先事項の一つだ。
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