鬼姫、強かにほくそ笑む
なお、グリフォン牧場は完成時に受けた報告と違わず、ミザリア領主ゲオルグの膝元である中核都市ブレアードの北門付近に併設されており、出城のような構造になっている。
その外壁を遠くに眺めつつ、郊外の穀倉地帯を鬼姫のミツキと一緒に歩むこと暫し、隣から若干の溜息が漏れ聞こえてきた。
「然したる距離では無いとは謂え、少々煩わしいですね」
「まぁ、偶には良い運動になるだろう」
「転移阻害の魔道装置に係る生産を禁止して、魔族側で牛耳れば事前認証も可能かと……」
さも良いことを思い付いたような感じで提案してくるが、それだと都市部の重要拠点にいつでも魔族勢が転移できるため、流石にイルゼ嬢やベイグラッド家の面々も嫌がるだろう。
何時ぞやの “偏在の魔女” みたいに転移門経由の遠隔攻撃などされては厄介極まり無く、それ故に歴史の中で防御策が洗練されていった事実もある。
「親しき中にも礼儀ありだ、状況が逼迫しない限りは考えなくて良いさ」
「左様ですか、了承しました」
御随意にといった態度で引き下がったあたり、本気では無いようだと意識の片隅へ片付けた頃合いで牧場の入口付近まで至り、マスケット銃装備の衛兵と並び立つベイグラッド家の次男坊が出迎えてくれた。
「魔王殿、お久し振りです」
「城塞都市の攻略戦以来だな、クリストファ殿」
気負いなく差し出された右掌を掴んで握手に応じた後、促されるまま視察対象の施設内に足を踏み入れていく。
急拵えの低い防壁に阻まれ、窺い知ることができなかった内側は人の手が入った草原となっていて、厳選された優秀なミザリア領の騎士達が近い将来の相棒となる仔グリフォンと戯れていた。
「魔王殿の予想通り、あれでも鳥の一種だったみたいで “刷り込み効果” とやらなのか、自分を孵化させた騎士にべったりですよ」
「そのようだな、態々貴重な卵を融通した甲斐があったというものだ」
「ふふっ、地下ダンジョンの中層域で調達したのは我らですけどね」
中長期的なリベルディア騎士国の竜騎兵対策として、何某かの航空戦力が欲しい領主ゲオルグの足元を見た鬼姫が強かに微笑み、“たんまりと儲けさせて頂きました”と鉄扇で口元を隠して宣う。
以前に相談を受けた折、ミツキに丸投げした経緯もあって好きにさせていたが…… 少し頬を引き攣らせたクリストファの表情から判断すれば、随分と鬼人族達の懐は潤ったようだ。
(手間を掛けたのも確かだから、良いけどな)
眼前の風景に馴染まない商売絡みの話は一先ず聞き流し、草地に座って寄り添う仔グリフォンの頭を撫でながら談笑している若い女騎士達や、体力向上のために追い掛けっこに興じる者達へ視線を向けた。
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