魔王、進攻を開始する
その日、銀等級の冒険者アスタはシュタルティア王国の北部森林地帯にあるダンジョンの地下30階層にいた。彼とその仲間達は王国探索部隊の斥候として雇われていた故だ。契約上、金銭的報酬の他にこのダンジョンで得た魔物などの素材は自分たちのものにしていい事になっており、割の良い仕事と言える。
ダンジョン固有の魔物に由来する素材の価値は高く、さらには地上では見なくなった魔族もいるという。その角や吸血鬼の血などは錬金素材として凄まじい値が付いていた。
因みに魔族と魔物は別もので、今の時代も変わらずに地上には飢えた魔物が闊歩しており、冒険者たちはそれの討伐依頼や素材採取などで生計を立てていたりする。
所謂、魔族と魔物の差は一定以上の知性と感性を備えているかだ。意思疎通ができて、高水準の文化を持っているのが魔族であり、知性や理性の低いゴブリンやオークなどは“魔物”扱いである。繁殖力の強いそれらは未だにこの世界に広く分布していた。
まぁ、知性が低く、魔族ほどの脅威と見做されなかった事も影響しているのだろうと考えていると、共に此処へ赴いた仲間達から声がかかる。
「…… いい加減、暇になってきたなぁ」
「そうだな」
ここ地下30階層は冒険者としての仕事が少ない、上層が迷路を含む構造だったのに対して、此処は広いフロアに大きな岩や鉱石が点在する鉱山区画のようになっていた。
学者達の説にダンジョン下層は耕作地や森林など、魔族が生きていくための区画になっているという主張もあるが、あながち間違いではない事が証明されたと言える。お陰で彼らは下層への階段を王国兵と一緒に取り囲んで防衛を固めるばかりだ。
「でも、何も無い方がいいじゃない? とくに今はね」
「かもな……」
おどけた表情の魔術師の言葉にアスタが投げやりな返事をした瞬間、階下から雄叫びが聞こえ、ミノタウロスの重装兵が階段を上ってくる。
「ッ、敵襲! クロスボウ隊、縦列、順繰りに撃っていけ!!」
傍にいた王国兵小隊長の命令ですぐにクロスボウ隊が6人1列の5列を組み、その両脇に盾兵10名ずつが控えて階下からの射撃に備えた。
そして第1列が射撃を行った後、すぐさま最後列に回り、矢の装填を行い、第2列が射撃という具合に間断なく階下へ矢を放つ。
彼らの眼下では黒毛のミノタウロスが指揮を執って、大盾を構えたミノタウロス兵4名を前面に押し出しており、人狼兵がその後ろに縦列で長々と続く。このまま出口まで押し切り、なだれ込むつもりだろう。
「小隊長殿! 我々はどういたしましょう!!」
「冒険者たちは本隊に連絡だ、聖女様と聖騎士殿にこの事を伝えてくれ!」
「わかりました。行くぞッ、皆!」
仲間と共にアスタが走りだそうとして、ふと視線を向けたダンジョン中央部の吹き抜けの方角に20名前後の影が舞い上がり、此方へと凄い速度で距離を詰めてきた。
近付いてくるにつれて人型であると理解できたため、吸血鬼か何かなのだろうと判断した直後、彼らは信じがたい光景を目にしてしまう。
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