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魔王、養殖業の実態を知る

そんなイリア達から送られてきた関連書籍の要旨を纏め上げ、都市エベルの沿岸部で漁師らを指揮するのは年齢不詳の青肌エルフ娘、リーゼロッテである。


浮力が高く柔軟性を持つ木材で複数の(いかだ)を組み上げさせ、そこに持ち寄った二枚貝の殻を括りつけた縄紐を結わえさせていく。


「なぁ、リーゼロッテの嬢ちゃん、これで本当にオスト貝が根付くのか?」


やや幼さすら感じさせる少女の外見のみで判断し、少なくとも齢三百歳を超える彼女の実態など露知らず、漁師達の一人が素朴な疑問の声を投げ掛けた。


「うむ、多分なのじゃが…… 牡蠣モドキ、もといオスト貝の幼生は自らの張り付く場所を探して海中を漂っているでのぅ、こうやって(いかだ)から縄で貝殻を垂らしてやれば付着するのじゃ!」


「そうかい、意図的にオスト貝を自生させられるなら、収穫も容易いな!」

「まぁ、上手くいけばじゃし、育つまで()れなりの時間が掛かるがのぅ」


実際、地球の牡蠣に類似した二枚貝の成長には一年半程を待つ必要がある。


その間にも潮の満ち引きを利用して海面に露出させる事で稚貝を鍛え、同時に生命力の低い有害生物を空気と日差しに晒して死滅させる工程など、やるべき事は多々あるのだが……


「俺、一度はオスト貝を腹いっぱい食べたかったんだ」


「やめとけや、食中りで腹下すのが目に見えてらぁ」

「それよりもやっぱ懐が潤うのは嬉しいな……」


もう既に捕らぬ牡蠣モドキの殻算用を始めた漁師たちを眺め、リーゼロッテを含む青銅のエルフ達は内心で冷や汗をかく。


「うぅ、実験を兼ねているので失敗する確率の方が高いとは言えんのじゃあ」

「お師匠~、ここは明確に言っておいた方が良い気がします」


「それは後でイルゼ殿に頼んで、試みに対する漁民たちの理解を深めてもらおう」


困り顔をしていたリーゼロッテの隣に並んで蒼髪を撫ぜると、俺の腰元にポフっと抱き付いた彼女が無い胸を押し当て謝意を示す。


「ありがとうなのじゃ、レオン!」

「構わないさ、それはそうと…… 筏式垂下法で幼体を集める訳だな」


「この辺りは波がそこまで荒くないからのぅ」

「干潟もありますし、何気に牡蠣モドキの養殖に向いているのです!」


傍からの声に視線を下ろせば、足元で二枚貝に穴を開ける作業をしていた青肌エルフ娘と目が合ったので、労いを籠めて頭をポフポフしておく。


「~~♪」

「…… 妾にもして良いんじゃよ?」


藍色髪を揺らしてずずいと身を寄せるリーゼロッテに押し負け、によによと見守る漁師達の視線に晒されつつも同じ事を強いられてしまった。


「…… で、進捗はどうなんだ」


「普通に順調なのじゃが、養殖は諸手を上げて賛同できん側面があるでのぅ」


曰く、第二段階として予定している(たら)に似た魚の養殖では獲れた小魚、つまり幼魚を餌にするのだが…… それを養殖魚に喰わせる事で近郊の魚数そのものが減少し、果ては食物連鎖で大型魚類にも影響が出てくるとの事だ。


「安定した魚介類の供給は実現できても、生態系を崩すか」


「ん、妾達も一応は自然と共に生きるエルフ族じゃから、人族のエゴを感じてしまうのじゃ」


「あくまで試験的な試みだが、慎重にやるべきだな」

「案外、本場の養殖も近いうちに破綻するかものぅ」


彼女の言葉に地球でサバを養殖する過程において、サバの稚魚を喰わせている矛盾に加え、将来的な破滅を指摘した論文を思い出す。


多少、耳に痛いが仕方あるまい…… なんでも此方に持ち込むのは良し悪しがある事を再認識しながら、俺も(いかだ)に縄紐を結ぶ作業に加わった。

”皆様に楽しく読んでもらえる物語” を目指して日々精進です!

ブクマや評価などで応援してくれれば、本当に嬉しく思います!!

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