吸血令嬢、銀座でマカロンを買う
「ベイ~、2119行目の部分でコンパイルが通らないのですッ」
「そこで呼び出してる関数を作ったのは俺じゃない、ディーレだ」
「あぅ…… ごめんなさい、ミア」
藤堂商事の持ち物件であるマンションの一室、合同会社 “IRiA” に務める青肌金眼のエルフ達が笹穂耳をピコピコと動かし、忙しなくキーボードを叩いて資金獲得のため仕事に励む。
最早、藤堂商事の専属ソフトウェア開発部門と化した彼らは本日も忙しない。
「カズィ、隣の連中の進捗状況を見て来てもらって構わないか?」
「さっき…… リポビタンZが切れたから、擬態して買い出しに行ったの」
「じゃ、私が行ってくるのです」
隣室に詰めている補充人員の同族達は主に開発ではなく、既存システムの保守管理を担当しており、この時期は人事異動に伴う各種操作のサポート業務をしていた。
さらに平成から令和に改元される事もあり、事前に対応が必要なシステムも一部にあったりする。
そんな彼らの様子を確認するために魔法で肌の色を変え、笹穂耳に擬態を施したミアが外の通路へ出たところで、吸血鬼の御令嬢が奥に設えられたエレベーターから降りてくるのが見えた。
「あ、イリア様~、乙です!」
「ご苦労様です、ミア」
種族は異なれども、一年も経てば直属の部下のような状態になっている青肌エルフ達への差し入れを掲げ、年齢不詳の黒髪灼眼を持つ少女が微笑む。
「トウドウと出掛けた銀座で白いマカロンを買ってきました」
「ありがとう御座います♪ あ、でもちょっと隣の進捗を確認しないとです」
「ふふっ、ちゃんと残しておきますよ」
四個入りの一箱をミアに預け、保守班のエルフ達に渡して欲しいと頼んだ後、イリアは開発班の部屋に入っていく。
「「お疲れ様です」」
「二人とも頑張っていますね、少し休憩にしましょうか?」
「私…… お茶、入れますね」
以前の場所よりも広い間取りとなったキッチンにディーレが立ち、いそいそと湯を沸かして紅茶の準備を始めるのを眺めつつ、ダイニングのソファに腰を下ろしたイリアは脚を組んで頬杖を突いた。
(先月の林業関連の書物に続き、今度は養殖関連の書物と網ですか…… トウドウに任せておけば調達してくれるでしょうけれど、都市エベル近郊の魚介類で上手くいくのかしら?)
若干の疑問は消えないが、考えても仕方ない事なのでテーブルに置いた六個の白いマカロンが詰まった箱の取手を掴み、キッチンへ向かってディーレの隣に並ぶ。
「シューレは……」
「ん、いつも通りです」
つまり、黒猫の五郎丸と気侭に出歩いているのだろう。
彼の分は冷蔵庫に入れるとして、一時的に席を外しているだけのミア達を含め、五人分の食器とフォークを用意する。
惑星 “ルーナ” にて国境の都市を巡る紛争があった間も、地球派遣組は至って平和に日々を過ごし、新たな拠点の暮らしにすっかりと馴染んでいた。
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