魔王、薪ストーブの構造を知る
作中、実は冬なので春まで進めさせていただきます(;'∀')
「では、交易路の確保は良いとして…… 次は越冬についてです、魔王殿」
もうすぐにでも北の土地に本格的な冬がやってくる事もあり、都市や町の至るところで越冬の準備がなされている。
具体的には冬場に与える餌が無くなる家畜を現時点で処分して燻製肉に加工し、鱈に似た魚の干物などを作り込んでいく。
そうして必要な食糧を蓄え込み、厳冬の期間は家に籠もって暮らすのが普通だ。
(下手に降雪の中を出歩けば命に関わるからな)
故にリベルディア騎士国の連中も際どい時期を選んで攻めて来たのだろう。
収穫期の城塞都市ワルドを占領後、予定通りに事が進まなくても兵糧を整えながら一月強を粘れば冬に入り、お互いに継戦が難しくなる訳だ。
もはや過ぎた事を頭の片隅で考えつつ、手元の資料を眺めてイルゼ嬢の話を聞いていたら、ジト目を向けられている事に気付く。
「むぅ、ちゃんと聞いてください!」
「いや、聞いているよ、ダンジョン外縁部の木を伐りたいんだろう」
「いつも勝手に伐って、薪にしていたのでしょう?」
「一応、確認しておいた方が良いと思ったのですよ、スカーレット殿」
まぁ、それくらいは良いかと思い掛けたところでハタと気付く。
「リゼ、北部の森林地帯って…… 昔はもっと鬱蒼としていたよな?」
「うむ、妾もエルフの端くれじゃからのぅ、それは気になっていたのじゃ」
記憶にある三百年前よりも現ノースグランツ領の人口も増えているし、畑の開墾で伐採されたものや、木材や薪に使われて消費される樹木も馬鹿にならない。
かつて地球の中世ヨーロッパでも人口の増加と共に森が消滅していった歴史があり、植樹という概念は割と早い段階で成立している。
「植えるか……」
「それは賛成なのじゃが、暖房器具の改善も必要なのじゃ! より効率的に熱 “えねるぎぃ” を使ってやらねばのぅ」
ピコピコと長い笹穂耳を機嫌よく動かして、ここぞとばかりに資料をリーゼロッテが配り出す。そこには薪ストーブの設計図が印刷されていた。
「これは暖炉か、イチロー?」
「あぁ、似て非なるものだが、そう思ってくれて構わない」
「先日、イリアに頼んでトウドウに送らせたものを皆でバラして、技術と構造を理解したのじゃ!!」
いつもの如く、嬉しそうにリーゼロッテが語り出したので観念して耳を傾ける。
「これは試作中の密閉型薪ストーブでのぅ、地球で言うところのケイ酸塩鉱物 “ばーみきゅらいと” を成型して燃焼室を設え、断熱による輻射熱を得られる構造なのじゃ」
現状の囲炉裏に近い民家の暖房器具や屋敷の暖炉は開放型に該当するため、無秩序に室内の空気を取り込んで燃焼してしまう事を考慮すれば、暖まった空気を残せる密閉型というだけでも暖房効率は良いのだろう。
「…… 念のために聞いておくが、一酸化炭素など不燃焼ガスの危険性はないのか」
「ないとは言えないのじゃが “きゃたりてっくこんばすたー” を二次燃焼室に組み込んで燃焼効率も上げておるでのぅ」
聞きなれない言葉に苦笑を浮かべながらも彼女が示す部分の資料を確認し、ハチの巣状をした金属製器具の図柄を眺めつつ、今日も活用し難い知識を補充する。
途中、薪の消費量を25~30%程抑えられるという部分で、北の土地を治める領主のイルゼ嬢が瞳の色を変えて喰いつき、都市エベルに薪ストーブを導入していく事が決まった。
なお、富裕層を中心に広まった件のストーブは好評で、青肌エルフ達の技師としての評判と認知度も上がり、人と魔の距離感が少しだけ近づく事になる。
そんな中でベイグラッド家の長男ヴェルガを解放した後、冬場は地熱で暖かいダンジョンの最下層に籠ってヴィレダとベルベアの相手をしたり、スカーレットやイルゼ嬢の愚痴を聞いている間に外は春の気配を迎えていた。
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