魔王、中核都市エベルに帰還する
数日の後、領主であるイルゼ・リースティアへの報告もあり、森林地帯の地下ダンジョンではなく、俺達は中核都市エベルの外縁に新設された魔族区画へ足を踏み入れる。
前日に通信用の極小転移ゲートで連絡を入れていた事もあり、整備された道路の先にある区画の大通りにはコボルト族や人狼族、人族であれば “星の使徒” の信者など出迎えの姿があった。
それを蒸気機関式の四輪駆動車の荷台から背を反らせて一瞥し、視線を対面のスカーレットに向ければ、同様に状況を窺っていた彼女は少し頬を膨らませていた。
「むぅ、身内の数が少ないですわ」
「吸血鬼達は忙しいからな」
論理派が多い彼女の同胞たちは主に官吏として日々の公務に追われており、暇ではないのだが…… 少々不満があったのだろう。
「最近の若い連中には、お嬢様の素晴らしさを叩き込まないといけませんな」
「止めておけ、ゼルギウス……」
ボキボキと指を鳴らして、物理的に ”素晴らしさ” とやらを叩き込みそうな吸血鬼の老執事に釘を刺し、同胞たちの歓声に答えながら大通りを進んでいくうちに、発展性を持たせるために広大な敷地を設定してある魔族区画の庁舎前に辿り着いた。
「遠征、お疲れ様でした。魔王殿……」
「出迎えありがとう、イルゼ殿」
此方を待って青と白を基調とした清楚なドレス姿で佇む、我らが盟友にしてノースグランツ領主の慰労に応え、その背後に控える侍従のマリにも軽く会釈を済ませる。
他にも黒毛が特徴的なミノタウロス族の長ダロスや、コボルト族を纏めるオルトスがその場にいたため、言葉を交そうとした瞬間、横手から小柄な影が飛びついてきた。
「レオ~ン、お帰りなのじゃ!」
「とッ… 相変わらずだな、リゼは」
「ふっ、妾はいつも才色兼備じゃからのぅ♪」
長い笹穂耳をピコピコさせつつ、青白い肌のエルフが上機嫌で抱きついて頬を摺り寄せてくるのを放置していたら、スカーレットが不機嫌そうに小声で毒を吐く。
「…… ちっぱい風情が」
「なんじゃ、焼いておるのか? 若いのぅ、これだから… ふぎゅ!?」
さらに俺に身を寄せてにやりと挑発するリーゼロッテの頭を軽く小突き、やや呆れ顔のオルトスに視線を合わせた。
「ご無事の帰還を嬉しく思います、王様」
「遠征に同行した貴公の配下は輜重兵として良く働いてくれた、感謝する」
謝意を示す言葉にオルトスは慇懃な態度で深く頭を下げるが、フサフサの尻尾が嬉しそうに揺れているので分かりやすい。彼らコボルト族は絆が堅いため、戻ってきた仲間の無事と働きを認められた事が嬉しいのだろう。
「ん、直接戦ったわけじゃないけど… コボルト達は美味しいパンを焼いてくれた」
「喜んで頂けて何よりです、ヴィレダ様」
同系上位種の天狼娘からも労いの言葉を貰って、出迎えに集まったコボルト達の尻尾が左右に揺れ出した。
(なにやら凄く和む光景だな……)
そんな一幕を眺めつつも、残ったダロスとも言葉を交わす。
「出掛けに建築中だった建物も幾つか完成しているようだな……」
「最近はうちの連中もすっかり職人になりましてね、案外向いている気がします」
確かに、並みの魔族には扱えない重装備を纏う筋骨隆々なミノタウロス族は土木作業にも適性がある。
住居や工房の建築には青銅のエルフ達が使役するゴーレムも参加しているものの、繰り人形であるために融通が利かない部分もあり、彼らの存在は非常に有難い。
「…… 愚痴じゃないんですがね、長命種族と違って地下ダンジョンで生まれた俺達は仲間の為に身体を張って盾になる事しか知りません、だから何かを作るのが楽しいんですよ」
「そうか…… 頼りにさせて貰う」
「勿論、任せてください」
良い笑顔を見せたダロスとの会話を済ませた後、役目を終えた遠征隊をこの場で正式に解散させ、俺は喧騒の中から抜け出して庁舎内に足を踏み入れていく。
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