魔王、試作型日本刀”みすりる”を手に出陣する
これに俺たち指揮官3名、青銅のエルフの技術士官ラーガットも同行するが、彼とは地下31階層で分かれる。
そこから二つ下の階層にある人狼居住区の森林地帯で天然ゴムの材料となる樹液を探す仕事があるらしい。リーゼロッテ曰く、“樹液のらてっくすに炭素と硫黄を混ぜて弾性を得るのじゃ!”との事である。蒸気機関のパッキンに使用するとの事だ。
ともあれ、既に準備は整っているようなので早速行動を開始しよう。
「皆、揃っているな!」
「あのね…… 皆、寝坊したイチローを待ってたんだよ?」
「うぐッ」
そういえばソウダッタナ。
暫し、良い言い訳が無いものかと考えていれば、原因の一端を作ったリーゼロッテの部下が恭しく一振りの刀を差し出してきた。
「魔王様、第四区画工房にて鍛造致しました試作型日本刀“みすりる”に御座います」
あぁ、そう言えばリーゼロッテとインターネットで色々なWebサイトを見ていた時、軽いノリで作ろうという話になっていた。
「有難く使わせてもらおう」
「では、イチロー様、参りましょう」
スカーレットに促され、事前に遠見の魔法で確認した座標へ転移ゲートを開き、訓練場と地下31階層を繋ぐ。
なお、ゲートと遠見の魔法を組み合わせれば何処へでも行けるが、それに対抗する手段も歴史の中で発展してきた。このダンジョンも俺が認めた者以外は遠見と転移の魔法を使えない仕組みになっている。
各階層に阻害装置が置かれているのだが、地下30階層のそれは人間達に奪われており、先程相手の様子を探ろうとしたら遠見の魔法が掻き消されてしまった。まぁ、普通は最初に押さえるべき設備だよな、馬鹿じゃあるまいし。
つまり、地下30階層にて相手は遠見と転移を使えるが、此方は使えないという事を念頭に置く必要があるという事だ。
取り敢えずの転移先、地下31階層では防衛の要であるミノタウロス重装兵と人狼兵、コボルト支援隊の計六十数名が上層への階段を護っていた。
階段は身体の大きな魔族の事や、階層間で農作物や物資を運ぶ都合上、ある程度の広さを持たせてあるが、それでも一度に戦闘できる人数は限られているため防衛には向いている。
逆に言えば、こちらも階段から一度に攻められる人数は限定されてしまう事に留意しなければならない。
「王よ、お待ちしておりました……」
黒毛のミノタウロスが金属鎧を鳴らしながら跪いて首を垂れる。
「防衛ご苦労、世話をかけたな。さぁ、此処からが反撃だ!」
「「「うおぉおおおおーッ!!」」」
「「「ウォオオーーーンッ」」」
猛牛たちの雄叫びと人狼の遠吠え、おまけで“わんわん”というコボルトの鳴き声が響き、気勢を上げた軍勢は上層へ向かって進軍を始めた。
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