魔王、事の次第を傍観する
「改めて名乗らせてもらう、リベルディア軍第一師団長エッケハルト・フレストだ。先ずは此方の呼び掛けに応えてくれた事に謝意を述べよう」
言葉と共に力強く握手へ応じた老騎士に随伴する竜騎士長バルザック・ヴァルケ、騎士長レナード・ザルムを含む数名と引き合わせてもらい、此方もスカーレットを紹介した後に交渉のテーブルへ着いた。
そのまま冒頭における少しの沈黙を挟んで、休戦の呼び掛け側である師団長殿が話を切り出す。
「ここらで手打ちにしたい、これ以上はお互いに不毛というものだ」
「…… 当家としては問答無用で城塞都市ワルドを攻められた手前、賠償金の請求をしたいぐらいなのですけどね」
さらりとクリストファが毒を吐くものの、賠償金額の確定は通常 “明確な勝敗が着いた” 場合の講和によって決められるものであり、現状の城塞都市を巡る攻防はその段階まで至っていない。
「北門は奪われたが…… 決定的な優劣が付いたわけじゃない」
「レナード殿の言う通り、我々はまだ戦える」
苦々しい表情でヴァルケ殿がスカーレットを露骨に睨み付けた。
恐らく、赤と黒に彩られた豪奢なドレスと金糸の髪を靡かせて大空を駆け、麾下の竜騎兵達を打ち落とした吸血姫の姿が記憶に焼き付いている故だろう。
中核都市ブレアード近郊の空戦にて、彼の指揮する竜騎兵隊は吸血飛兵に惨敗し、致命的な損害を被ったはずだ。
「確か…… 貴殿の竜騎兵隊は半壊していたと思うが?」
「ぐッ、ドラグーンだけがリベルディアの戦力ではないッ」
俺の言葉に声を荒げたヴァルケ殿がさらに視線を鋭くし、余裕のある微笑を返すスカーレットに敵意を向けるが、交渉の場では生産的な態度とは言えないためにフレスト殿が溜息を吐く。
「戦えば被害がでるのは相手も同じだ、それを避けるための場であろう」
「ッ、申し訳ありません、師団長閣下」
「魔王殿もあまり部下を煽らんでくれ」
「あぁ、俺達は援軍に過ぎないからな、取り敢えずは傍観するさ……」
軽く頷いた後、先の言葉通りにクリストファとフレスト殿を中心とした両軍の交渉を黙って窺った。
もし、決裂となれば此処から先は息を潜める様に暮らしている住民を巻き込む事もあり、主導権はリベルディア騎士国側が持つため、提示された内容にミザリア領側が難色を示しながらも幾つかの事が取り決められていく。
最初に北門の戦いで捕虜となった双方の兵達の交換から始まり、城塞都市の陥落前にミザリア側が運び入れていた物資や装備、兵糧の残りなども返還が確約された。
(まぁ、撤退する際に余剰な荷物は足枷になるだけだからな……)
潔く合理的なリベルディア将兵に対する評価を上方修正している間にも事は進み、相手方が最も拘るだろう撤退交渉に差し掛かり、話し合いは佳境を迎える。
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