魔王、会談に出向く
なお、伝統的な戦時の慣習では、休戦協定における合意は口頭のみで良い。少し考えれば分かる話であるが、休戦の第一歩目はどちらかによる相手への呼び掛けが契機となり、事後の署名にまで繋がっていく。
(その第一歩が難しい訳だがな……)
結局のところ、双方ともに戦闘が利にならない状況が必要であり、現状は正にその通りと言えた。
ミザリア領兵を指揮するクリストファの立場で考えれば、自領の都市で市街戦など避けたいところだろう。リベルディア騎士国の第三皇子殿とそのシンパにしても、自国内の王位継承争いの前哨戦で自勢力に深手を負っても仕方ない。
俺たちノースグランツ領の軍勢はあくまでもミザリアの援軍に過ぎないため、直接的な決定権は無いが…… そもそも、休戦への流れはクリストファと話し合った上で意図した事だ。
とは言え、詳細を確認する必要がある。
「ヴィレダ、ガイエン殿を探して呼んできてくれ」
「ん、というかこっちにくるよ」
風に紛れる匂いを天狼娘が嗅覚で捕えて首を動かせば、その方向からノースグランツ領の騎士長が歩み寄ってきた。
「魔王殿ッ、既に休戦申し入れの件は聞き及んでいますか」
「先ほど聞いた、これからクリストファの所へ行く…… スカーレット」
「はい、お供しますわ」
隣に座す吸血姫に一声掛けてから立ち上がり、焚火の傍で朝食後のゆったりとした雰囲気を醸し出すヴィレダやエルミア達と別れ、魔人兵数名を護衛代わりに引き連れてミザリア領兵達の本陣へ向かう。
その中心部にある大型の天幕では既にベイグラッド辺境伯の次男坊と副官を中心として、大隊規模の領兵を指揮する騎士長達が集っていた。
「おはようございます、魔王殿に吸血姫殿」
「良い朝だな、クリストファ殿」
「早速で申し訳ないのですけど、状況を確認しても良いかしら?」
「ジグル、もう一度説明を頼む」
彼の言葉に従い、最近は見慣れてきた副官を務める騎士が進み出て一礼する。
「つい半刻程前になりますが、北門で指揮を執っていた騎士長ゼルライトの下へ広場に陣取る敵軍から白旗を掲げた軍使が参りまして……」
相手方が持ち込んだのは三日間の暫時休戦及び期間内での講和交渉との事で、概ね此方の思惑通りに推移していると見て問題ない。
休戦初日となる本日の午後には軍使の宣言通り、城塞都市の中央広場周辺に展開していたリベルディアの三個陸戦中隊が都市南門まで後退し、市街には城を護る竜騎士と精鋭中隊のみが駐留する状態となった。
さらに事前の折り合いを着けるための遣り取りで翌一日を消費した後、息を潜めて状況の推移を窺う市民たちの視線を感じつつも、クリストファらと共に会談が行われる中央広場へ向かう。
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