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魔王、さりげなく半手拭(ハンカチ)を渡される

城塞都市ワルド北門の戦いから一夜明けた朝、ノースグランツ勢力の主だった皆と防壁の外側に張ったテントの傍で焚火を囲み、ゼルギウスが調理した半熟卵のサンドイッチを食む。


具材の卵は北門周辺の養鶏場の主が戦闘後に戻ってきていたので、新鮮なものを購入できたらしい。


半熟に茹でたそれを早朝から輜重隊のコボルトたちが焼いたパンに燻製ハムと一緒に挟んであり、上機嫌のヴィレダが豪快に齧り付いていた。


「卵、卵、半熟たまご~♪」

「ッ……… (ッ、ヴィレダ…… 垂れてる)」


とろりと彼女の口元を滴ってきた黄身を姉代わりのベルベアが甲斐甲斐しく半手拭(ハンカチ)で拭うのを一瞥し、ゼルギウスの作る料理はどれも旨いなと感心しながら俺も食欲を満たしていたら、隣に座るスカーレットが袖を軽く引っ張ってきた。


「おじ様、私も♪」


見れば口端に半熟卵の黄身を僅かに付着させているが…… わざとだろう。


「すまないが……」

「どうぞ、これを」


半手拭(ハンカチ)を持ってないと言おうとしたら、いつの間にか背後に佇んでいた万能執事(ゼルギウス)がそっと繊細な刺繍が施された純白のソレを差し出す。


「…………… 使えという事か、理解した」


受け取った半手拭(ハンカチ)でスカーレットの口元を力が入り過ぎないよう、ほどよく加減して拭う。


「ん、ありがとう御座います♪」

「いや、いつも世話になっているからな」


軽く返して、手元に残ったサンドイッチを口に放り込み、嚥下して紅茶を啜る。


「さて、この後どう転ぶか……」

「今のところ、リベルディアに動きはありませんわね」


制圧直後から防壁や付近の建造物には数名の吸血狙撃兵が潜んでおり、城塞都市中央部の広場に陣取るリベルティア歩兵隊の様子をスコープ越しに監視していた。


相手方に動きがあれば連絡が来る手筈だが、今のところは静かなものだ。


「ならば、意図は伝わったと見るべきか?」

「彼らが蒙昧でなければ……」


両手でウッドマグを持って紅茶を啜るスカーレットの言う通り、城塞都市陥落から始まる一連の戦いにおける撃破対被撃破比率(キルレシオ)は三対一で、圧倒的にミザリア・ノースグランツ連合がリベルディア騎士国よりも有利となっている。


未だ数で連中が勝るとは言え、この状況で勢いのある此方が攻撃の手を止める意味を適切に考えていれば、自ずと戦いの流れ着く先は定まっていく。


「ん~、普通なら休戦を持ちかける良い機会だよね、イチロー」

「………… (コクコク)」


「そうだな、無理に決着をつける必要など何処にも無い」


双方とも負けた事にならない休戦であれば、賠償金などの問題が絡んでくる講和よりも敷居が低く、休戦の形を取った実質的な終戦も幾つか事例があった。


「物事を明確にしない事もまた知恵か……」

「外交などそんなものだろう、玉虫色で互いに都合よく解釈するのさ」


誰に聞かせるでもなく呟いたグレイドの言葉に日本の外交姿勢を思い浮かべたところで、待ち人来たりと言うべきか…… リベルディアから正式な暫時休戦と協定交渉の申し入れがあったという報せが俺たちのところにも届いた。

”皆様に楽しく読んでもらえる物語” を目指して日々精進です!

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