魔王、知らないうちに評価される
「で、戦況はどうなっているのかな、フレスト師団長」
城塞都市中央に建つ城の執務室にて、リベルディア騎士国の第三王子アルフレッドが椅子に腰掛け、開け放たれた窓から都市北門の方角を眺める。
「はッ、北門に配していた第四中隊が総崩れして、数十名以上の人的損耗を出した模様です。現在、周辺一帯はミザリア・ノースグランツ連合軍の手に落ちました」
偽りや飾り無く自軍の不利と失態を淡々と伝えてくるあたり、質実剛健な師団長に好感が持てない事もないのだが…… 彼は重い溜め息を吐いてしまう。
「…… 中核都市ブレア―ドの空襲に失敗した時点で、潔く退くべきだったか」
元々、この城塞都市ワルド侵攻は近い将来に予測される本国での後継者争いに於いて、自身が優位に立つ為の布石に過ぎない。
自らを推してくれる軍部の勢力を減じさせるのは得策ではないし、そろそろ潮時とも思える。
「あぁ、それでか…… なるほど、内情を知られているようだ」
「恐らくそうでしょうな」
相手方が仕掛けてきた日没前という微妙な時間帯を鑑みれば、北門周辺の趨勢が決した後、日暮れを切っ掛けとして戦闘が収束するように意図していたのだろう。
それは即ち、リベルディア陣営に現状を省みて、再考する時間を取らせているに等しい。
「ならば今夜にも接触があるのでしょうか、王子」
「…… 最悪、お互いが出方を窺って無為な損失を出す可能性もある」
ただ、未だ勝敗が決した訳でもないのにリベルディア側から使者を出せば、足元を見られる可能性は否定できないのが難しいところだ。
色々と判断するには現時点での詳細な戦力分析も必要となってくる。
「確か、リベルディアが負けると喚いて即時撤退を進言した竜騎士……」
「ドラグーン第二小隊長のリディックですな、歴戦の竜騎士ですが…… それ故、全軍の士気にも関わりますので、生き残った部下のリリア共々ここの地下牢に放り込んでおります」
それは気の毒な事をしたなと思いつつも、アルフレッドは思考を巡らせていく。
「再度、彼らの意見を聞くべきだろうな、北門で指揮を取っていた騎士長と一緒に呼び出してくれ」
「分かりました、直ぐに手配致しましょう」
一礼して執務室を辞する師団長を見送り、一人になった途端、彼は疲れた表情で再び重い溜め息を吐き出す。
「ノースグランツの魔物共を甘く見過ぎた……」
人に近い姿形をしている吸血鬼や人狼どもを中心にしているとは言え、個体としての能力や生態が違いすぎる彼らとミザリア領兵が効率的に連携してくるのは想定外だ。
一応、実際に矛を交えた者達から意見を聞いて判断するつもりだが、思っていた以上に彼の魔王殿は厄介らしい。
「だからこそ、信頼もできるのは皮肉だな」
大方、ここで交渉を持てばこれ以上の戦いは避けられるし、無理な追撃もしてこないだろう。となれば、話の落としどころはどうあるべきか……。
暫し瞑目して、彼は様々な状況を想定するのだった。
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