魔王、城塞都市に至る
「さて…… おじ様、夜風は冷えますので中に戻りましょう」
「……(コクッ)」
さりげなくスカーレットが左手を引くのに任せて屋根端まで歩き出せば、右腕にベルベアが自身の腕をおもむろに絡みつけてきた。
「…… というか、このままじゃ降りられないだろう」
「あぅ…… 一緒に… 飛ぶ?」
「私が抱き上げて運ぶとか♪」
両案とも微妙なので離れてもらい、屋根上にあがる際に使ったテラス目掛けてトンっと飛び降り、開け放ったままの窓からゲオルグ殿の執務室に戻る。
「あ、魔王様、乙です~♪」
「お客様、全て恙なく終わられましたか?」
待っている間に手持ち無沙汰になったのか、地球に派遣された青銅のエルフの同胞からもらったハンドスピナーで遊んでいたエルミアはどうでも良いが…… 背筋を伸ばしたまま上体を倒した挨拶で出迎え、戦果を問う侍従の娘に対しては簡潔な言葉を返しておく。
「首尾よくいった、概ね予定通りだ」
「では、私は主にその旨を伝えにいきますので…… 失礼致します」
もともとその為だけに控えていた彼女は綺麗な髪を揺らして会釈すると、即座に身を翻して部屋から退出していった。その背を見送ってから振り返り、音も立てずにいつの間にか窓辺へ佇んでいたベルベアに向き合う。
「スカーレットはどうした?」
「…… (多分、あっち)」
今日は比較的よく喋っていたが、ここにきて黒狼の娘はいつもの如く無言で都市ブレアードの南西側を指し示す。恐らく此方が気になり、戦闘の事後処理を配下に任せて飛んできたんだろうが…… 俺達の事が確認出来たら、今度は向こうが気になったらしい。
「私達も迎えに行くのです!」
「……ん」
「今夜は吸血鬼達に頼らせてもらったからな……」
城内を抜けて二人と共に月夜の街並みを進み、城壁にて防空網を抜けてきた竜騎士らを狙撃していたゼルギウス麾下の者達や、南西側の空から戻ってきた吸血鬼達と合流して、領兵が出払ったために空き部屋ばかりとなった兵舎を借りて身体を休めた。
そうして夜が明けた後に再び都市ブレアードを出立し、森に置き去りにしてきた部隊の備品を回収してから、進軍を中断して待っているヴィレダやクリストファ達に追いつくため、一路に城塞都市ワルドを目指す。
なお、此方が追い付いた時には撤退してきたミザリア領兵たちもクリストファの軍勢に加わっており、魔族を加えて、輜重隊を除いた実質戦力が1800名足らずの混成旅団を成していた。
「まぁ、数的優位は依然、敵方にある訳だがな……」
「それにいざ攻めるとなると防壁が邪魔ですね」
「…… 街の被害を考えなくて良いなら方法はあるよ、イチロー」
「却下だ、ヴィレダ」
確かにクリストファが零したように防壁は障害となるが、下手をすれば救援に来たはずが悪名を立てて帰る羽目になってしまう。
(さて、どうしたものか……)
弓矢の射程範囲外かつ城門から一定の距離を隔てた陣地にて、俺は遠くに見える城塞都市の防壁を見遣った。
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