魔王、月下の屋根上にて来客を待つ
一方、リベルディア騎士国の竜騎兵隊が撤退用の信号弾を発する少し前、新たな補充要員を迎え入れて規定数を揃えたドラグーン第二小隊の竜騎士達は本隊と別れ、中核都市ブレアードの新市街上空を飛翔していた。
勿論、小柄な女性の竜騎士リリアが所有する概念装 “偏光” が生み出す不可視の領域に小隊ごと包まれているため、地上から空を見上げてもその姿を捉える事はできない。
だが、光に作用するその領域内からはやや無秩序に広がった新市街と防壁に覆われた旧市街、さらにはベイグラッド家の居城が見える。
「月明かりで薄っすらにしか街並みは見えないが、結構栄えてやがるな……」
第二小隊を率いるリディックの所属する第一師団が拠点とする王都ゼグラステア程ではないにしろ、さすがにミザリア領随一の中核都市というところだ。
「ん~、綺麗な街並みですね、炸裂弾を投下するのに躊躇しちゃいますか、たいちょ?」
「何しに来たと思ってんだよ、リリア……」
「幸いな事に任務は一撃離脱ですからね、さっさと終わらせやしょう」
後方から聞こえてきた的外れな部下の問いに応じて、やや呆れた声を上げる小隊長に別の竜騎士が軽口を叩く。
その彼が言うように前回の跳ね橋、落とし格子、城門の三重構造の攻略に比べれば、今回はそこまでの危険は伴わないはずであるが…… 想定外の事態はいつ起きるか分からない。
気を引締め直して旧市街を護る防壁を飛び越え、第二小隊は密偵から報告のあった領主の執務室と寝室の近辺に炸裂弾を投下するため、まっすぐに城を目指す。
爆発物による攻撃でゲオルグ・ベイグラッドが死ねば上々、負傷してくれるだけでも構わない。最悪、空振りに終わっても身近な場所を狙い撃ちできれば危機感を植え付ける事ができ、後の交渉事を上手く進めるための大きな材料となる。
城塞都市ワルドを騎士国が押さえた現状なら、いつでもミザリア領内の各都市に竜騎兵による空襲を仕掛ける事ができると理解してもらうのが主目的とも言えるわけだが……
(ちッ、そう上手くはいかないか)
そろそろ、竜騎兵本隊による市街地攻撃が行われている頃合いになっても、未だ爆発音が聞こえないどころかその姿すら見えない。
ここまできて引き返す訳にもいかず、任務を果たして全速で離脱しようと腹を括ったリディックは後続の部下達へ素早く手信号を送る。
直後、リリアがそのままでは爆撃の障害となってしまう不可視のフィールドを解除し、姿を現した竜騎士達が精密な攻撃をするため、炸裂弾を手に次々と城の上部へ急降下していく。
彼らが向かう先の屋根上には月明かりに照らされた二人分の人影、その一人は獣の耳を持った人狼族の娘であり、最初から見えていたかのように輝く黄金色の瞳が竜騎士達を射抜いた。
「ッ、嗅覚か!!」
最重要といえる場所にて感覚を研ぎ澄ませていたベルベアから連中の接近を告げられ、迎撃のために俺が虚空へ手を伸ばしたのと先陣を切る竜騎士が炸裂弾を投下するのは同時だった。
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